摩天楼ミュージアム





 ジュリアスは目の前の光景に、思わず呟いた。
「・・・・・・・・何故・・・」
 ジュリアスの執務室の裏手の庭は、確かに日当たりがよく、鳥などが集まり易い。
 しかし、こんな光景は初めてである。
 先程の言葉の続きは、胸中で溜息混じりに愚痴た。
(こんなところで、緑の守護聖が寝ているのだ・・・)
 くーすかと寝息を立てる姿に、ジュリアスは頭を抱え、実際に深い溜息を吐く。
 壁にもたれたマルセルは、首座の守護聖にも一行にお構いなしに、夢の住人であった。

 確かに、今日は良い天気である。ぽかぽかと日差しが差し込み、暑すぎず、寒すぎず。
 その上、光の守護聖の執務室。誰にも邪魔されすに昼寝するには恵まれた環境であった。だがそ
れは、並の神経だったらまず近付かないであろうから、恵まれた環境なのである。
 しかし、この歳若い守護聖の神経は、どうやら並ではなかったらしい。

「・・・・全く、万一のことがあったら一体どうするつもりで・・」
 そう呟き、マルセルを揺り起こそうとした瞬間、

 ぐら、

「・・・・・・・・!」
その身体が壁を伝い、横に揺れる。

 がさ・・・

 微かな衣擦れの音と共に、ジュリアスは思わずその身体を支えていた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 それでも、未だマルセルが目覚める気配はない。
「・・・・・全く、どのような神経を・・・・・」
 結局、マルセルの顔が自分の右肩に寄せられているため、ジュリアスはその横に腰を下ろすしか
なかった。
「・・・・ま・・・・・・」
「・・・・・・・・?・・・起きたのか?」
 小さな声の主の顔を覗き込むが、その瞳は開いてはいなかった。
「・・・・・・・・・ス・・・・・・ま・・・」
 だが、唇だけが微かに動いている。
「・・・・・寝言か?」

「・・・・・ジュリ・・ア・ス・・・さ・・ま・・・・」
「?・・・マルセル?」
 不意に名を呼ばれ、ジュリアスはどきりとする。
「・・ジュ・・リア・スさ・・ま・・・・ごめ・・ん・なさ・・・い・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 一体、この年少の守護聖は夢の中で何をやらかしたのか。
 それと同時に、夢の中でまで人を叱咤する役回りなのかと・・・ジュリアスは微かに自分の立場が
いたたまれなくなる。
 だが、ジュリアスといえど常に人の粗ばかり探している訳もない。
 口にこそ出さないが、評価すべきところはきちんと見えているつもりであった。

「・・・・・お前は、自分の役割をこなしている・・・・私はそう思うぞ・・・」

 小さな、小さな、囁くような声を、緑の守護聖の耳元に流す。

「・・・・・・・・・・・ん・・・」
 マルセルが軽く肩をもぞつかせると、
「・・・・・・・・・・・・・マルセル・・?」
口元を小さく綻ばせている。

 一瞬、起きているのかとも思ったが、規則正しい寝息がそれを否定していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・全く・・・」
 やれやれと、何度目かの溜息を吐くと、ジュリアスは空に目を遣る。


 この創られた『自然の美』に浮かぶ雲が、ゆっくりと流れて行く。
 恐らくマルセルが飼っている鳥であろう、これまたゆっくりと大空に弧を描くように舞っている。



 たまには。
 たまには、こんな日も良いのかもしれない。


 ジュリアスは、空の青さに目を細めながら小さく微笑んだ。













「ジュ、ジュリアスさまっ?!」
 マルセルは自分が枕にしていたものの正体に、慌てて飛び起きる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あ、あのっ・・・ジュリアスさま・・・・僕・・・・す、すいません・・・・・」
 慌てふためくマルセルに反し、いつもと変わらぬ端正な面持ちのまま、ジュリアスは呟く。
「・・・もうよい・・・・早く職務に戻れ」
「・・・で、でも・・・・」
「よいから、戻るのだ」
 言い訳を許さない瞳で、毅然と言い放つジュリアスに、
「・・・・・・・・・・・はい」
マルセルはその場から立ち去るしかなかった。

 走り去る背中を見送る。その姿が完全に見えなくなると、

「・・・・・・・・・・・・・・っ・・・」

ジュリアスは顔を顰める。
「・・・・・・・・・・・・情けない・・・・」

 全身が痺れて動けないのだ。
 体重を預けてくるマルセルを支えて、2時間ばかり身動きが取れなかったのだ。

「・・・このような情けない姿を見られるなど・・・・」
 首座の守護聖として言語道断。

 頼むから、痺れが取れるまでの間は誰も来ないことを祈りたい。
 まぁ、わざわざ光の守護聖の執務室に近付こうなどというそんな物好きは、そう多くはあるまい。
 金の髪の女王候補は、今日はディアと話をすると言っていた。
 もうひとりは、たった今帰ったばかりだ。

 じんじんと痺れる手足を投げ出したまま、ジュリアスは再び空を眺める。






 マルセルは、足を止める。
 いくら早く行けと言われたからといって、よりによってジュリアスの肩を借りて昼寝した挙句、まとも
な礼や侘びも入れずに、帰ってきてしまった。

 ばさ、と肩にチュピが舞い降りる。

 ピピッ・・・

 その鳴声に、
「・・・・・・・うん、ちゃんとお礼をいわなきゃね、チュピ!」
マルセルは踵を返し、光の守護聖の元へと走り出した。








「・・・・・・痛・・・・」

 全く、とんだ午後のひと時を過ごしてしまったものだ。

 それでも。


 この空の青さの前には、少しどうでも良い気分になってくる。

「・・・フ・・・・らしくもない・・・・・」

 自分らしからぬ考えに、自嘲気味に微笑む。




 ジュリアスは、そのままそっと瞼を閉じた。










 マルセルは目の前の光景に、思わず呟いた。

「・・・・・・・・どうしよう、チュピ・・・」

 今度は、マルセルが目の前の寝息を立てる彫刻のような寝顔に、頭を抱え深い溜息を吐くので
あった。

















頼む・・・・。
言うな。
みなまで言うな・・・・。

・・・・・・・・・。
ちくしょうぅ・・・・。


あ。ちなみにコレ
単行本ネタの完全パクリっす(笑)



2004.09.08




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