フィアンセになりたい 10

 

 ガン、ガン

 ぶっきらぼうなノックの音。
 聞かなくとも、その声の主が誰であるか判ってしまう程だった。
「アーロン、入るぞ」
 静止する間もなく、扉がガチャリと開いた。
「・・・・・!・・・ジェクト・・・」
 アーロンは寝台に横たわっていた躯を、慌てて跳ね起こした。
 妙な緊張感を持っているのは自分だけか、そんな事を思わせるように、ジェクトの振る舞いは
いつもと全く変わらないように感じる。

 昨夜、あんなことがあったばかりだというのに。

「スマン」
「・・・・・?!」
 アーロンはどきっとした。
 昨夜のことを考えていた矢先に謝罪がくるのだから、見透かされたのかと思った。
「これから言うこと・・・最初に謝っとく」
 それこそ的外れだったようで内心ほっとする。思わず握り締めていたシーツを、先程よりは
緩い力で握り直した。
「・・・な、何をだ・・・?」
 普段と変わらぬ振る舞いで、ジェクトは寝台の脇にどかっと腰を降ろすと、
「話しちまった、夕べのこと」
背中越しにさらっと言葉を流す。

「・・・・・・・・・・・・・・」
 あまりに簡単に言うものだから、アーロンは意味を理解するのに時間がかかっていた。

 誰に。
 あえてそう問う必要はないであろう。

「・・・・っ・・お前っ!」
 ジェクトはくってかかってきた左腕を、振り向かぬまま左手でひょいと掴み取ると、肩越しに
力任せに引き付ける。
「・・・・・っ!!」
 どん、と左胸をジェクトの背に打ち付けられたが、思ったより痛みがない事から、手加減して
引いたのだろうかとアーロンは思った。
「ったくよ、相変わらず乱暴じゃねぇか」
 未だ離されない手と手が、微かに触れ合った感触が、暖かい。
「・・・だ、誰の責任だ!」
 だが、そう感じていることを知られたくなくてアーロンはわざと声を荒げた。

「・・・・知ってたぜ、ありゃ」
 一瞬、忘れかけた現実をその一言が引き戻す。
「・・・知って・・・・・た・・・・」
「あんだけ観察してる男がよ、気付かねぇってこたぁねーだろ?」
「・・・・・・・・・・・・」
 アーロンは言葉に詰まった。

 ブラスカへの想いは本物だ。いや、本物だと思っていた。
 なのに、昨夜の自分はジェクトの優しさに甘えて、見失ったのだ。

 それは、ブラスカへの裏切り。
 優しさに甘えて、好きでもない男に身を任せた。

「・・・オレ様ぁよ・・・ヒキョーなこたぁキライだ」
「・・・・ジェクト?」

 ・・・・・好きでもない?

「だから・・・コレだけ言っときたいんだ」

 ジェクトの瞳は、昨夜と同じ色をしている。
 背中を向けているのに、アーロンは何故かそう感じた。

「ブラスカが究極召喚を手に入れて、何もかも終わって、三人で帰れたら・・・」

 三人で。

 在り得ない事である。
 ブラスカが究極召喚を手に入れれば、確実にその命は散るのだ。
 それでもそう言うのは、ブラスカと対等に立ちたいという、その思いだけであったのだろうか?

 掴まれた左腕が、熱い。

「そん時、オレ様を選んだら・・・」
 肩口に項垂れたアーロンの左手を、ジェクトは右手で軽く持ち上げる。 
「最っ高に・・・シアワセにしてやんぜ」

 そう囁き、指先に唇を当てた。

「・・・・・・馬鹿者・・・」

 アーロンは下唇を噛み締める。




 
 好きでもない?


 想いは本物?



 天秤が揺れ動く。


 ゆら ゆら

 ゆら ゆら






















scince 8 Apr.2004












約、二年ぶり(爆)
ずーーっとこの展開を考えながら(苦笑)
なんか、このアーロン・・ヤダなぁ。

大好きなこみちさんへ、敬愛と微力の応援をこめて・・・。
 そして、ささやかな慰安もこめて。

 

 

 

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