「ザナルカンドから来た男のことかな?」
ブラスカは、ああそう言えばというような表情で答えた。
「ザナルカンド・・・?あの聖なる遺跡から・・・?」
アーロンは、そんな馬鹿なというような表情で返した。
昨日、聖ベベル宮に不審な男が侵入し、一時、宮内は騒然となった。
だが、僧兵の控え室に隠れている処を取り押さえ、事なきを得たのである。
「でも、お手柄だったね、アーロン」
そう言いながらブラスカは、夕暮れの日差しが差し込む執務室の窓辺から、眩しそうに眼を細め、風景を眺めた。
「そんな・・・、偶然ですから」
微笑むブラスカの瞳を、アーロンは真っ直ぐ見ることが出来なかった。
不本意とはいえ、その『不審者』に唇を奪われてしまったのだ。
それをブラスカに伝えることなど出来る筈もなく、奇妙な後ろめたさだけが尾を引く。
だが、自分とブラスカの間には、何らかの約束が交わされているわけではない。
ましてや、恋人気取りで、そんなことを言って、さらりと流されてしまったら・・・?
「どうしたのかな?顔色が悪いよ」
ブラスカの声に現実に引き戻される。
窓が閉じられ、カーテンが降ろされた。
「・・あ・・、何でもないです」
自分の妄想を振り払うように、心の奥で頭を振った。
「・・・疲れているのかな・・・?」
その頬に軽く手を添え、アーロンの顔を自分の方へ向かせる。
アーロンは、一瞬噛み合った目線を外した。
「・・・何か、あったのかい?」
ブラスカの優しい声。
だが、その声の中に、何か、心配とは違う感情が見え隠れする気がした。
「本当に、何でも、ありません・・・」
アーロンの答えに、ブラスカはあまり満足はしていないようだった。
「・・・アーロン・・・」
その腰を引き寄せ、距離を縮めると、軽く唇を重ね、すぐに離す。
「・・・一緒に、来るかい?」
「・・・・・え?」
突然の言葉に、アーロンは目を丸くする。
「ブラスカ様・・・?」
ブラスカは、物悲しい表情でアーロンを見詰め、言葉を紡いだ。
「・・召喚士になると決めたとき、君とは離れようと決めたつもりだったんだけどね・・・」
両手でそっとアーロンの頬を包み込むと、再び口付ける。今度は、何度も唇を啄ばむように、繰り返し繰り返し重ねる。
「・・・やはり、出来ないよ。」
「・・ブラスカ様・・・」
アーロンは両腕を伸ばし、そっとブラスカの背に手を回した。
「私の行く末は・・・知っての通りだ。」
背中の手に、力が入る。
「・・・決して、君を幸せには、出来ない・・・」
頬の両手がアーロンの腰に回り、捕らえるように抱き締める。
「それでも、君が欲しいと思うのは、エゴだと・・・判っている。」
アーロンの眼から、思わず涙が溢れる。
「・・・でも、一緒に、来てほしい。」
「・・・・・はい。」
互いに強く抱き締めあう。
交わされた一つの約束
決して、幸福な結末を迎えることのない、誓いであった
scince 4 Nov.2001
益々、昼メロ・・・(砂吐)
大好きなこみちさんへ、敬愛と微力の応援をこめて・・・。
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