フィアンセになりたい 4

 

 ガチャリという音と共に扉が開く。

「ああ、お帰り、アーロン」

 ブラスカの微笑みに、アーロンは胸が締め付けられそうになった。

 彼は、ここに来る自分に『お帰り』と言ってくれる。

「た、ただいま帰りました・・・」

 少しぎこちなく、帰宅の言葉を交わす。何だか照れ臭い気分に包まれた。

 アーロンの肩を抱き寄せ、扉の中に招き入れると、思い出したようにブラスカが言葉を紡いだ。

「先に中に入っていてくれないか?外のチョコボに荷物を繋ぎっぱなしでね」

「・・・・あ・・」

 そのまま、軽く手を挙げ、ブラスカの姿は外闇に薄れていった。

 仕方なく、アーロンは室内へ重い足を向ける。

 憂鬱の原因が、そこにあるのを知ってはいたが。



「よう!」

 ジェクトはグラスをアーロンの方に掲げて挨拶を交わした。

「・・・・・・」

 思わず無言で眼を逸らす。

「おいおい、相変わらずツレないねぇ」

 グラスをテーブルに置くと、ジェクトは椅子から立ち上がり、アーロンに歩み寄る。

「・・・寄るな・・・」

 逆に挑発されたように、アーロンを壁際まで追い詰める。

「そう言いなさんな、熱〜いクチ付けまで交わした仲なのに、よ?」

「・・な・・!!」

 思わず、声が詰まる。

 背中は壁。左右をジェクトの両腕に遮られ、アーロンは逃げ道を失っていた。

「・・・離れろ・・ブラスカ様が、戻って来る・・・・」

 ジェクトを牽制するために口から出た言葉だった。

「面白いねぇ、見せてやろうか?」

「止めろ!ブラスカ様には・・・」

 そこまで言いかけて、自分が墓穴を掘ったことに気付いて、アーロンは戸惑った。

「・・・ふーん、召喚士さまにゃ、知られたくないってかぁ?」

 ジェクトの右手が、アーロンの顎に掛かる。強引に正面を向けられるが、目線だけは合わせまいと、その鳶色の瞳を逸らした。

「じゃ、口止め料、貰いたいよなぁ・・・」

 初めてジェクトを見た時と同じ『恐怖』。

 ブラスカを欺きたくない・・・。

 だが・・・。

 アーロンはきつく瞳を閉じ、俯いた。



 その時

「・・・おとうさまぁ・・・」

 重い扉を、小さな掌が開く。

「・・・ユウナちゃん・・・!」

 アーロンは、ジェクトの腕をすり抜け、扉に駆け寄った。

 まだ幼い少女は、眼にいっぱいの涙を溜めながら、アーロンに抱きつく。

「・・アーロン・・・おとうさまはぁ・・?」

「ブラスカ様は、忘れ物を取りに行ってる。すぐ帰ってくるよ」

「・・・ほんとぅ?」

 頷きながら自分の頭を優しく撫でるアーロンに、ユウナと呼ばれた少女は微笑みを見せる。

「・・・ブラスカ、子供がいるのか・・・?」

 思わずジェクトの口から驚愕の声が漏れた。

「・・・・おじさん、だぁれ?」

 左右、違色の瞳でジェクトを見詰める。

「ジェクトだよ、おじょーちゃんの名前は?」

「ユウナ・・・」

 意外に優しいジェクトの言葉尻に、アーロンは僅かにほっとした。

「ユウナちゃん、いくつなのかな?」

「・・・7さい」

 一瞬、ジェクトは眼を細める様に苦い笑みを浮かべると、ユウナを軽々と抱き上げた。

「そぉかぁ!ユウナちゃんはオレ様んトコの息子とおんなじ歳だなぁ!」

 アーロンは、この男の中の人間らしい一面を感じた。



 思えば、この男のことを何も知らない。

 確かに不遜な男ではあるが、それが全てではないと、思いたかった。彼をガードに選んだブラスカの審美眼を信じたいこともあったのだが、それ以外に湧き上がる不思議な感覚。

「・・・あんた、息子がいるのか・・・?」

 歩み寄ってみようと、思った。

「・・・あぁ、男のクセに、ピーピー泣きやがるけどな。」

 ジェクトの表情が、ふと、緩む。

 ユウナの寝顔を眺める時のブラスカと、同種の微笑みであった。

「・・・あんたは、一体何処から来たんだ・・・?」

 返って来る答えが判っていながら、アーロンは問うた。

 そして、自分が知りうる限りの、『今のザナルカンド』をジェクトに伝える。

 電気の仕掛けに囲まれた機会都市。

 そして、今は1000年前に滅びた都市の遺跡に囲まれた、スピラの聖地。



はぁ、とジェクトの口から溜息が漏れる。

その腕の中で、ユウナは安心しきった表情で眠りに落ちていた。

「・・・やっぱ、皆でよってたかってオレ様をからかってる訳じゃ、なさそーだよな?」

 諦めたように、ジェクトは天井を仰いだ。



「・・・・・とにかく、ザナルカンドまで行くっきゃねぇよなぁ・・・」

 ユウナを柔らかいマットの上に横たえると、アーロンの方を見遣る。

「・・あのよ・・・、悪かったな・・」

「・・・?・・・」

 突然の謝罪に、アーロンは首を傾げた。

「イキナリ、強引なことしちまって、さ・・・」

 ようやく意味が飲み込めたのか、思わず赤面しているであろう自分の顔を背けた。

「・・・わ、分かってるなら、もう詰まらない冗談は・・二度としないでくれ・・」

「・・・冗談のつもりは、ねぇんだけどなぁ・・・」

 ジェクトは、苦い顔をしながら鼻頭を軽く掻くと、ポツリと呟く。

「・・・は・・?」

 言葉の意味がよく飲み込めないのか、アーロンは眼を丸くする。

 その反応に、ジェクトの表情が不敵な笑みで歪んだ。

「・・・くく・・、おめぇ、ほんっとにカワイイなぁ!」

「・・なっ・・・失礼なことを言うな!!」



 ブラスカは、扉越しに響いてくる二人の会話を耳にしながら、苦笑する。

 ほんの僅かの、哀しみを込めた眼差しを宿しながら・・・。



 迷うとしかと思われなかった道が、些細な方向に反れ始める

 目の前に、二本の道が差し出されたのならば

 選ぶのは

 自分














scince 17 Nov.2001












ジェクトと接近(笑)
気分は昼一時半からのメロドラマ・・・
ナレーヨン来宮●子さん風。

大好きなこみちさんへ、敬愛と微力の応援をこめて・・・。

 

 

 

ウインドウを閉じてください

 

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送