フィアンセになりたい 6

 

 ブラスカは、自分の隣で眠る若者の髪を優しく指で梳いた。

 眉根が一瞬ピクリと動くが、数秒後、再び規則正しい寝息に変化して行く。

 いつもは自分を警護する使命感から、夜も決して心底深く眠ってはいないであろう。

「・・・効いて、いるみたいだね・・・?」

 故に、今日のような情事の後は、業と魔法を掛け眠りを深くさせることがあった。

 アーロンの眠りが深いことを確認すると、ブラスカはベッドから立ち上がり、上着を羽織る。

 そのまま、部屋を後にすると、宿の外へと向かった。



 満天の星空を見上げる。

 もはや、祈り子との謁見も三度行い、ザナルカンドへの道のりも序々に終焉へと近付きつつあった。

 つまり自分の運命にも・・・・。

「・・・・?」

 背後に気配を感じたブラスカが振り返った先には、

「・・・・よぅ、召喚士サマ」

「・・・どうしました、一人寝が寂しい歳でもないでしょう?」

 近付いて来るジェクトに、にこやかに微笑みながら問い掛ける。

「言ってくれるぜ、何しろ隣が喧しくてねぇ・・・眠れやしねぇさ」

「おや、聞き耳でも立てていたのかな?悪趣味な・・・」

 ブラスカのカウンター攻撃に、ジェクトはチッと舌打ちすると、大樹の根元に腰を降ろし胡坐を掻いた。

「・・・ブラスカさんよ、あんた、業とやってるだろ・・・?」

「・・・・何のことかな?」

 ジェクトの方を見ることのないまま、ブラスカは応える。

「あんたとアーロンのことは、オレだって知ってるさ」

 まだ、ブラスカは振り返らない。

「オレがアーロンをどう思ってるか、あんた、知ってるだろ?」

 ゆっくりと、ブラスカが振り返る。

「・・・・何の、ことかな?」

「・・・そーゆートコ、喰えねぇんだよ・・・」

 ふふ、とブラスカが微笑むと、ジェクトのすぐ脇まで静かに近付き、言葉を紡いだ。

「・・・・召喚士の運命を、知っているかな?」

「・・・あぁン?」

 唐突な質問に、ジェクトは眼を丸くした。

「召喚士はね、シンを倒す術と引き換えに・・・」

 ブラスカがジェクトの横に腰掛ける。

「自分の命を捧げるんだよ」

「・・・・・・・」

 他人事の様に語るブラスカを、ジェクトは息を呑んで見詰めた。

「・・・あの子はね、私を繋ぎ止めようとするんだ・・・」

 夜風が吹く。

「・・・自分の運命を呪ってもいないし、変えるつもりもないのだけれど、ね」

 木の葉が、ザザ・・・と葉擦れの音を刻む。

「まだ、私は欲を捨てきれないみたいだよ・・・」

 ブラスカは笑みを称えながら、ジェクトと目線を合わせた。

「・・・そう簡単に、差し上げられませんね・・・」

 言葉は柔らかだが、秘められたものは、ジェクトの背筋に戦慄を走らせる。

 だが、逆にそれがジェクトの本能にも火を点ける。

「・・・それでも、オレ様が遠慮する『義理』はねぇワケだな・・・」

 予想外の、だが、あまりにも予想通りの返答に、ブラスカは苦笑いを浮かべる。

「まぁ、そうですね」

「んじゃ、遠慮なしってこった」



 もしかしたら

 もしかしたら、この男なら



 ブラスカの脳裏に、一瞬浮かんで、消えてゆく。



「・・・ですが、そう簡単ではありませんから、ね?」





 終焉。

 それは、命と、哀しみと、愛しさの

 幕を閉じる時。














scince 8 Feb.2002












ジェクトとブラスカ様の牽制しあい(笑)
こう、はっきりしないブラスカ様は
ムカつくけど昼メロにはかかせないデス・・・

大好きなこみちさんへ、敬愛と微力の応援をこめて・・・。

 

 

 

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