フィアンセになりたいanother 

 

 ガチャリという音と共に扉が開く。

「ああ、お帰り、アーロン」

 ブラスカの微笑みに、アーロンは胸が締め付けられそうになった。

 彼は、ここに来る自分に『お帰り』と言ってくれる。

「た、ただいま帰りました・・・」

 少しぎこちなく、帰宅の言葉を交わす。何だか照れ臭い気分に包まれた。

 アーロンの肩を抱き寄せ、扉の中に招き入れると、思い出したようにブラスカが言葉を紡いだ。

「先に中に入っていてくれないか?車に荷物を置きっ放しで

「・・・・あ・・」

 そのまま、軽く手を挙げ、ブラスカの姿はエレベーターに消えていった。

 仕方なく、アーロンは室内へ重い足を向ける。

 憂鬱の原因が、そこにあるのを知ってはいたが。



「よう!」

 ジェクトはグラスをアーロンの方に掲げて挨拶を交わした。

「・・・・・・」

 思わず無言で眼を逸らす。

「おいおい、相変わらずツレないねぇ」

 グラスをテーブルに置くと、ジェクトは椅子から立ち上がり、アーロンに歩み寄る。

「・・・寄るな・・・」

 逆に挑発されたように、アーロンを壁際まで追い詰める。

「そう言いなさんな、熱〜クチ付けまで交わした仲なのに、よ?」

「・・な・・!!」

 思わず、声が詰まる。

 背中は壁。左右をジェクトの両腕に遮られ、アーロンは逃げ道を失っていた。

「・・・離れろ・・ブラスカさんが、戻って来る・・・・」

 ジェクトを牽制するために口から出た言葉だった。

「面白いねぇ、見せてやろうか?」

「止めろ!ブラスカさんには・・・」

 そこまで言いかけて、自分が墓穴を掘ったことに気付いて、アーロンは戸惑った。

「・・・ふーん、課長さんに、知られたくないってかぁ?」

 ジェクトの右手が、アーロンの顎に掛かる。強引に正面を向けられるが、目線だけは合わせまいと、その鳶色の瞳を逸らした。

「じゃ、口止め料、貰いたいよなぁ・・・」

 初めてジェクトを見た時と同じ『恐怖』。

 ブラスカを欺きたくない・・・。

 だが・・・。

 アーロンはきつく瞳を閉じ、俯いた。



 その時

「・・・パパぁ・・・」

 重い扉を、小さな掌が開く。

「・・・ユウナちゃん・・・!」

 アーロンは、ジェクトの腕をすり抜け、扉に駆け寄った。

 まだ幼い少女は、眼にいっぱいの涙を溜めながら、アーロンに抱きつく。

「・・アーロン・・・パパはぁ・・?」

「ブラスカさんは、忘れ物を取りに行ってる。すぐ帰ってくるよ」

「・・・ほんとぅ?」

 頷きながら自分の頭を優しく撫でるアーロンに、ユウナと呼ばれた少女は微笑みを見せる。

「・・・ブラスカ、子供がいるのか・・・?」

 思わずジェクトの口から驚愕の声が漏れた。

「・・・・おじさん、だぁれ?」

 左右、違色の瞳でジェクトを見詰める。

「ジェクトだよ、おじょーちゃんの名前は?」

「ユウナ・・・」

 意外に優しいジェクトの言葉尻に、アーロンは僅かにほっとした。

「ユウナちゃん、いくつなのかな?」

「・・・7さい」

 一瞬、ジェクトは眼を細める様に苦い笑みを浮かべると、ユウナを軽々と抱き上げた。

「そぉかぁ!ユウナちゃんはオレ様トコの息子とおんなじ歳だなぁ!」

 アーロンは、この男の中の人間らしい一面を感じた。



 思えば、この男のことを何も知らない。

 確かに不遜な男ではあるが、それが全てではないと、思いたかった。彼を仲間に選んだブラスカの審美眼を信じたいこともあったのだが、それ以外に湧き上がる不思議な感覚。

「・・・あんた、息子がいるのか・・・?」

 歩み寄ってみようと、思った。

「・・・あぁ、男のクセに、ピーピー泣きやがるけどな。」

 ジェクトの表情が、ふと、緩む。

 ユウナの寝顔を眺める時のブラスカと、同種の微笑みであった。

「・・・あんたは、一体何処から来ただ・・・?」

 返って来る答えが判っていながら、アーロンは問うた。

 そして、自分が知りうる限りの、『今のザナルカンド社』をジェクトに伝える。

 全盛を誇った超巨大企業。

 そして、1000年前に突然謎の倒産による終幕を遂げたと噂される、だが、その実態を誰も確認したことのない伝説の会社。



 はぁ、とジェクトの口から溜息が漏れる。

 その腕の中で、ユウナは安心しきった表情で眠りに落ちていた。

「・・・やっぱ、皆でよってたかってオレ様をからかってる訳じゃ、なさそーだよな?」

 諦めたように、ジェクトは天井を仰いだ。



「・・・・・とにかく、行くっきゃねぇよなぁ・・・」

 ユウナをソファの上に横たえると、アーロンの方を見遣る。

「・・あのよ・・・、悪かったな・・」

「・・・?・・・」

 突然の謝罪に、アーロンは首を傾げた。

「イキナリ、強引なことしちまって、さ・・・」

 ようやく意味が飲み込めたのか、思わず赤面しているあろう自分の顔を背けた。

「・・・わ、分かってるなら、もう詰まらない冗談は・・二度としないでくれ・・」

「・・・冗談のつもりは、ねぇんだけどなぁ・・・」

 ジェクトは、苦い顔をしながら鼻頭を軽く掻くと、ポツリと呟く。

「・・・は・・?」

 言葉の意味がよく飲み込めないのか、アーロンは眼を丸くする。

 その反応に、ジェクトの表情が不敵な笑みで歪んだ。

「・・・くく・・、おめぇ、ほんっとにカワイイなぁ!」

「・・なっ・・・失礼なことを言うな!!」



 ブラスカは、扉越しに響いてくる二人の会話を耳にしながら、苦笑する。

 ほんの僅かの、哀しみを込めた眼差しを宿しながら・・・。



 迷うとしかと思われなかった道が、些細な方向に反始める

 目の前に、二本の道が差し出されたのならば

 選ぶのは

 自分














scince 17 Nov.2001












しかし笑える「伝説の企業」
どんな会社やねん!!
ナレーヨンは、やっぱり来宮●子さん風。

大好きなこみちさんへ、敬愛と微力の応援をこめて・・・。

 

 

 

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