フィアンセになりたいanother 

 

 ブラスカは、自分の隣で眠る若者の髪を優しく指で梳いた。

 眉根が一瞬ピクリと動くが、数秒後、再び規則正しい寝息に変化して行く。

 いつも自分の役割に対する使命感から、夜も決して心底深く眠ってはいないであろう。

「・・・効いて、いるみたいだね・・・?」

 故に、今日のような情事の後は、業と酒を飲ませ、眠りを深くさせることがあった。

 アーロンの眠りが深いことを確認すると、ブラスカはベッドから立ち上がり、上着を羽織る。

 そのまま、部屋を後にすると、ベランダへと向かった。



 満天の星空を見上げる。

 もはや、ザナルカンド支社の担当との交渉も三度行い、本社への道のりも序々に近付きつつあった。

 つまり自分の運命にも・・・・。

「・・・・?」

 背後に気配を感じたブラスカが振り返った先には、

「・・・・よぅ、課長サマ」

「・・・もうその呼び名は使えませんよ。それより、どうしました、一人寝が寂しい歳でもないでしょう?」

 近付いて来るジェクトに、にこやかに微笑みながら問い掛ける。

「言ってくれるぜ、何しろ隣の部屋が喧しくてねぇ・・・眠れやしねぇさ」

「おや、聞き耳でも立てていたのかな?悪趣味な・・・」

 ブラスカのカウンター攻撃に、ジェクトはチッと舌打ちすると、アスファルトの床に腰を降ろし胡坐を掻いた。

「・・・ブラスカさんよ、あんた、業とやってるだろ・・・?」

「・・・・何のことかな?」

 ジェクトの方を見ることのないまま、ブラスカは応える。

「あんたとアーロンのことは、オレだって知ってるさ

 まだ、ブラスカは振り返らない。

「オレがアーロンをどう思ってるか、あんた、知ってるだろ?」

 ゆっくりと、ブラスカが振り返る。

「・・・・何の、ことかな?」

「・・・ートコ、喰えねぇんだよ・・・」

 ふふ、とブラスカが微笑むと、ジェクトのすぐ脇まで静かに近付き、言葉を紡いだ。

「・・・・ザナル社に辿り着いた者の運命を、知っているかな?」

「・・・あぁン?」

 唐突な質問に、ジェクトは眼を丸くした。

「ザナル社はね、その業績と引き換えに・・・」

 ブラスカがジェクトの横に腰掛ける。

「海外への永久栄転が待っているだよ」

「・・・・・・・」

 他人事の様に語るブラスカを、ジェクトは息を呑んで見詰めた。

「・・・あの子はね、私を繋ぎ止めようとするだ・・・」

 夜風が吹く。

「・・・自分の決めたことだから、変えるつもりもないのだけれど、ね」

 マンションの脇に並ぶ大樹の葉が、ザザ・・・と葉擦れの音を刻む。

「まだ、私は欲を捨てきれないみたいだよ・・・」

 ブラスカは笑みを称えながら、ジェクトと目線を合わせた。

「・・・そう簡単に、差し上げられませんね・・・」

 言葉は柔らかだが、秘められたものは、ジェクトの背筋に戦慄を走らせる。

 だが、逆にそれがジェクトの本能にも火を点ける。

「・・・それでも、オレ様が遠慮する『義理』はねぇワケだな・・・」

 予想外の、だが、あまりにも予想通りの返答に、ブラスカは苦笑いを浮かべる。

「まぁ、そうですね」

「んじゃ、遠慮なしってこった」



 もしかしたら

 もしかしたら、この男なら



 ブラスカの脳裏に、一瞬浮かんで、消えてゆく。



「・・・ですが、そう簡単ではありませんから、ね?」





 終焉。

 それは、立場と、哀しみと、愛しさの

 幕を閉じる時。














scince 8 Feb.2002












ジェクトとブラスカ様の牽制しあい(笑)
これは本編もanotherもあんまし変わらない・・・
ジェクトには強気なのに、アーロンには何も言わない課長(笑)

大好きなこみちさんへ、敬愛と微力の応援をこめて・・・。

 

 

 

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