「たしか、古い言い伝えで、ヴァレンティーノという人物が愛し合う二人の仲を取り持った処から来ている、らしいですね」
と、ブラスカは微笑みながら語る。
「・・・はぁ・・・」
アーロンは半ば溜息にも似た返事をした。
コトの始まりといえば、
「明日はバレンタインデーだなぁ!」
ジェクトの思いっきり楽しそうなセリフで始まった。
ブラスカが寺院の僧と話をしている間、ガード達は庭の木陰で待機していた。
「・・・・何だ、それは?」
またバカげた事をほざいているな、という表情でアーロンは応える。
「・・あぁ?スピラではこの一大イベントは廃れっちまってんのかぁ!?」
両手でアタマをグシャグシャにしながら、やたらに大げさなアクションでジェクトは驚愕した。
その姿を見ながら、アーロンはやれやれ、と深く溜息を吐く。
「・・・そんなに大事な日なのか?」
「おうよ!!」
即答だった。
「・・・で、なんの日なんだ?その、ばれんた・・・んで?ん?」
「バレンタインデーだっつーの、バ・レ・ン・タ・イ・ン!!」
「・・・で、その、『ばれんなんとか』がどうだと言うのだ?」
やや不機嫌な表情をしながら、再度アーロンは問うた。
「チョコレートに愛を込めて、好きなヤツに告白するってぇ日よ!」
ジェクトは偉そうに胸を張ってきっぱりと言い切った。
「・・・・・それだけか?」
「それだけだとぉぉ?!」
不可思議な表情のアーロンに、ジェクトは食って掛かった。
「あのなぁ、チョコを何個もらえるかってぇので『男の威厳』ってのが決まるんだぜ!!」
「・・・・ようは唯の見栄の張り合いなワケか・・・」
「・・おめぇ、身も蓋もないコト言うんじゃねぇよ・・・ったく・・・」
チッと舌打ちすると、ジェクトはその場を離れ、数メートル先の叢にフテ寝し始めた。
(・・・・・全く、子供じゃないんだぞ、あいつは・・・)
アーロンが胸中で呟いた処に、ブラスカが所用を終えて寺院から戻って来る。
「・・・おや、ジェクトはどうしたんですか?」
「ブラスカ様、実は・・・」
先ほどまでの経緯を説明すると、ブラスカはそう言えば、というような表情で話し出す。
「たしか、古い言い伝えで、ヴァレンティーノという人物が愛し合う二人の仲を取り持った処から来ている、らしいですね」
と、ブラスカは微笑みながら語る。
「まぁ、ジェクトが言っているのは、その言い伝えに便乗した菓子職人たちの、いわば『策略』ですけれど」
「・・・はぁ・・・」
アーロンは半ば溜息にも似た返事をした。
「・・・とにかく、呼んで来ます」
ふて腐れたまま横になるジェクトの背後に近付くと、アーロンは屈み込みジェクトに声を掛けた。
「・・・おい、ジェクト、行くぞ」
「・・・・・納得いかねぇ・・」
ポソリと声が返ってくる。
「おめぇは、オレ様のプライドを傷つけたんだぜ!」
そんなことで傷つく程度のプライドなのか、と心中で思いつつも、これ以上駄々を捏ねられても困ると思ったアーロンは、仕方なく打開策に出る。
「・・・じゃあ、どうすれば満足なんだ?」
そのセリフで、ジェクトの背中がピク、と反応する。
「・・・・何か方法は、あるのか?」
弾かれるように起き上がったジェクトは、アーロンの前に胡坐をかき、視線を合わせた。
「・・・アーロン、オレ様にチョコをよこせ!」
「・・・・・・はぁ?」
アーロンは、ぽかんと口を開ける。
「何故、俺がお前にそんなものをやらねばならんのだ?」
本気で、アーロンのアタマには疑問符が飛んでいた。
「・・・マジでオオボケかましてやがる・・・」
ジェクトはがっくりと項垂れた。
その姿を、アーロンは暫し眺めた後、溜息混じりに言葉を繋いだ。
「・・・・どんなものでも、文句は言うなよ」
そう言い残すと、アーロンは小走りにその場を去っていった。
去り際に、
「ブラスカ様、すいませんがジェクトと先に宿へお戻りください!」
と、ブラスカへの気遣いは忘れていなかった。
「あぁ、気をつけて」
微笑むブラスカの向こう側で、取り残された感のジェクトが佇んでいた。
ブラスカ達が宿に着いて、30分も経過しない内にアーロンも宿へ戻ってきた。
ジェクトとブラスカの待つ部屋をノックすると、手に小さな包みを2つ抱えて室内へ入る。
「ほら、ジェクト」
「・・・おう、サンキュvv」
どん、という音と共にテーブル上に一つの包みが置かれた。
大きさの割りには重量を感じさせる音に一瞬首を傾げながらも、机に置かれた紙袋をウキウキしながら開いたジェクトの表情が固まった。
中には、見事な『特大業務用板チョコ』が一枚。
「・・・・アーーローンーー?」
「・・・文句があるなら喰うな」
さすがにブラスカも平静を装いつつも、噴出すのを堪えるのが苦痛そうであった。
「仕方がないだろう、村の菓子職人に無理を言って譲ってもらったんだから・・・」
アーロンは面倒臭そうに両腕を組んだ。
「・・・・つーか、その職人は出来上がりの菓子を売ってくんねぇのかぁ・・・?」
業務用チョコを恨めしそうに眺めながら、ジェクトが呟く。
「あぁ、それは・・・ブラスカ様、こちらを」
と、ブラスカにもう一つの小さな包みを手渡す。
「・・・私に、ですか?」
その中には、肌理細やかな仕事の施されたチョコレート菓子が数個入っていた。
「こういう美しい加工のされたものは、お好きだと思いまして・・・」
「ちょっと待てーーーー!!」
ジェクトが雄叫びを上げた。
「おめぇ、何でオレ様が業務用でブラスカはあんなイイモンなんだよっ!?」
「適材適所という言葉が・・・」
「ンなコト聞いてねぇ!!」
今にも暴れだしそうな勢いでジェクトはアーロンに食って掛かる。
「オレ様は納得しねぇぞ!!」
「だから言っただろう、文句言うなって・・・」
ジェクトの顔が思いっきり不貞腐れた。
「・・・覚えてろよ、ぜってー今夜泣かしてやる・・・」
「・・・・何か言ったか?」
「いーーえ、なーーんも!!」
そう言いながら、ジェクトはその部屋を荒々しく後にした。
「・・・全く、短期なヤツだ・・・」
そう呟くアーロンに向かって、ブラスカは微笑みながら問いかける。
「・・・で、アーロン、その懐の包みは何時差し上げる予定ですか?」
「・・・ブラスカ様?!気付いて・・・」
アーロンの顔色が朱に染まる。
ブラスカは、そのアーロンのこめかみを引き寄せると、軽く口付けた。
「・・・・!・・ブラスカ様・・っ・・」
「・・・今日だけは、ジェクトを大目に見ましょうか・・・」
慌てるアーロンを横目に、ブラスカは再び、ふふ、と微笑んだ。
scince 14 feb.2002
どんな関係の三人なのか・・・。
自分でもナゾです。
かなり激しく・・・(苦笑)
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