ワルイコトシタイ

 

 ガタ・・ン

 アーロンの背中が壁に軽く打ち付けられる。



「・・・放せ・・!!」



 自分の左肩に掛かった大きな掌を引き剥がそうと、その手首を掴んだ。

 だが



「・・・悪ぃな・・オレ様ぁ、素直じゃなくてよ・・・」



 ビクともしない指。



「・・そういう問題じゃ・・!!」



 言いかけたアーロンの唇に、ジェクトは左手の人差し指を軽く重ねた。



「・・・もう、何も言うじゃねぇよ・・・」



 そのまま、上唇を、となぞる。

 指に掛かる、いつもより、ほんの少し熱い息。



「・・やっぱ、まだ熱いじゃーか・・・」



 悪戯っぽく、優しく、アーロンの下唇を抓ると、その指を顎に滑らせる。



「・・大丈夫だ!これ以上・・旅を遅らせる訳には・・・」



 肩を抑えた掌を放すと、アーロンの額にその手を被せた。

 右掌と、左の指、両方から伝わってくる熱さに、ジェクトは眉を顰めながら、わざと低く囁いた。



「・・・これの、どぉーこぉーがぁー大丈夫だってんだぁ?」



「・・・・・・」



 首を動かすことのできないアーロンは、目線だけをジェクトから背ける。



「・・なぁ、おめぇ・・もちっと自分を大事にしろ、な?」



 その声に、アーロンの視線が再び戻る。

 その顔から両手を放すと、ジェクトの両指が首筋に落ちた。



「なんーか・・・力入りすぎちまって、壊れるぞ?」



 右の指を首から肩に滑らせ、その肩に掛かった黒髪に、指を絡ませる。



「もうちぃっと、ワルイコちゃんになっても、いいじゃーの?」



「・・わ、わるいこ・・・俺は子供じゃないだが・・・」



 冷静を装うアーロンの心が序々に乱れているのは明らかだった。



「あぁ、確かに子供じゃねぇよな?」



 黒髪がジェクトの指先で絡まり、さら・・と指の隙間を抜けて、再びアーロンの肩に落ちる。

 それを又、指が絡め取り、弄ぶ。



「・・・・・もう判ったから・・・離れてくれ・・・」



 熱とは別の、熱さに苛まれたアーロンは、搾り出すように呟いた。



「・・・やっぱ、子供はそんなカオしねぇもんなぁ・・・」



 ジェクトは、絡ませた髪を自分の顔に引き寄せ、その漆黒に口付けた。



「・・!・・ジェクト・・っ・・・」



 慌てるアーロンを傍目に、ジェクトはその行為を、何度も、繰り返す。



 気恥ずかしさに耐えられなくなったアーロンは、ジェクトの手首を掴み、自分から放そうとした。

 が、逆にその右手をあっさりと掴み取られると、壁に押し付けられる。



「・・・子供に、できねぇよ・・・そんな瞳は、よ・・・」



 手首を握った指を、アーロンの掌に滑らせ、重ね合わせた。

 指の間に指を滑らせ、更に絡ませる。

 指が触れ合った瞬間、アーロンの腕がビク、と震えた。



「・・・やべぇな・・・オマエ、病人だってのになぁ・・・」



 ジェクトは口付けていた髪をそっと放すと、絡めたアーロンの指を引き寄せ、その手の甲に唇を落とす。



「・・・!・・・」



 朱に染まったアーロンの表情を、愉しむように見遣ると、人差し指と中指を自分のそれで弄ぶように指の腹を押し、又絡ませる。



「・・・なぁ・・・?」



 アーロンは、応えなかった。



「・・・カラダに、ワルイコト、するか・・・?」



 やはり、アーロンは応えなかった。



「・・・オマエみたいなワルイコちゃんと、したい・・・」



 それでも、アーロンは応えなかった。

 が、アーロンの指が、そっとジェクトの指を握り返す。



「・・・ココロにも、ワルイコトになっちまいそうだ・・・」



 ジェクトは、満足そうに顔を歪めながら、ニヤリと笑みを浮かべた。














scince 13 Nov.2002












以前、『冒険の小道』さまでアップして
いただいてた『手』を題材にした話です。

ご事情により閉鎖されるとのことで、
こちらにアップさせていただきます。

 

 

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