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喜納昇華さま/ アイノクロバラさま




「ティーダ。ちょっと来い」

家の外から聞こえるアーロンの声。静かな声のくせに、よく通る声で、家の中にいるオレの耳にまで届いた。オレは「ん?」と頭にクエスチョンマークを出して、アイスキャンディーを咥えながら、外に出た。



夜なのに、肌をくすぐる風は暖かい。

「アーロン?」

呼び寄せた人物を探し、オレは辺りをきょろきょろと見回す。中二階のフロアにアーロンは、欄干に肘をついてどこかを見ていた。



遠くを見ているような、表情。

時々見せるよね?

あんたの瞳の先に映っているのは、ザナルカンドじゃないどこか・・・。



その背中を見て、オレの中でフラッシュバックする忌まわしい記憶。



オヤジと母さんも・・・・よく、ここからザナルカンドの街を見てたっけ・・・。

この位置からあの背中を見るのがイヤだったんだ・・・。





「アーロン」

もう一度アーロンの名前を呼ぶ。

振り返らない背中に、駆け寄る勇気はない・・・。

何かのトラウマのように。

オレはその場で、立ち竦んでいた。





「こっちだ。早く来い」

オレの言葉に気づいて、振り返るアーロン。

そして、手招きをして、呼び寄せた。

そして、踏み出せる一歩。





その先に待つ、オレの一番大切な人に向かって。

この頃、オヤジや母さんのことを考える時間が減ったのは、たぶんあんたのおかげだよね。

自分の中に占める割合がどんどん増えていって、

学校のこととか、

ブリッツのこととか、

友達のこと、

女の子のこと。

オレだって考えることいっぱいあるんだよ。

それなのに、あんたのこと考えてる時間が、大半を占めている。

あんたは無愛想で、何考えてるかわかんなくて、それなのに口うるさくて。こんなおっさんのどこがいいんだろう?なんて思っちゃうけど、これって理屈じゃない。





そうだよね?アーロン・・・。





「どーしたっスか?」

オレはアーロンの横に立ち、見上げる。アーロンはこっちに目を向けないで、視線を上に向けた。オレもそれにつられて、空を見上げる。



「星が・・・綺麗だろう?」

この街は眠らない。だから星は見えない。

だが、突然の停電に、街は暗く沈み、ライトアップされた街並みは大人しく眠っていた。



暗く沈んだ天空には、ライトアップされた人工的な光より、もっと煌びやかな満天の星々。

空を見上げることなんて忘れていた。

星を見たのは・・・いつだったろう?





落ちてきそうなほど、圧倒的な星の輝きに、オレは言葉を失う。そしてゴクリと唾を飲み込んだ。

アーロンは、そんなオレの肩を優しく抱き寄せて、髪に指を埋める。



何だか、照れくさいな・・・。

オレの肩・・・少し震えてる。



「オレの住んでいた処は・・・」

ポツリとアーロンが言葉を紡ぐ。

「・・・夜になると星がこんなふうに輝いてな・・・」

始めて聞いたよ・・・。あんたの故郷の話。

すごい懐かしそうに話すアーロン。

「吸い込まれそうな程、綺麗だった・・・」

いつも、あんたがここから見ていたのは、故郷の風景。

オレの知らない、スピラという土地。

地図にも載っていない、スピラという大地。





「・・・帰りたい?」

アーロンは、オレの方を見て。フッと笑う。

「いや」

そしてまた視線を空へ戻した。





どこから来たのかもわからない、オレの大切な人。



知っていることと言えば、オレのオヤジと知り合いだということだけ。



うさんくさいってのこの上ないあんたに・・・オレはこんなにも恋してる。





「お前と・・・」

「うん?」

「ここで・・・お前と一緒に生きていくと、決めたからな・・・」

「アーロン?」

「・・・戻るつもりはないさ」





もう一度、アーロンの手は、オレの髪を梳いて、そして撫でて。

慈しむように、オレの額に唇を落とす。





「もう一回・・・」

「ん?」

「もう一回・・・言って」





オレと一緒に生きていく・・・って・・・。





オレの言葉に口元を緩ませるアーロン。

オレは、アーロンがその言葉を紡ぐ前に、少し背伸びをして、キスをした。



重なり合う二つの影。

光り輝く星の元。

静かに、静かに二人だけの時は流れる。













・・・アイスキャンディーは、オレの手の中、ポタポタと溶けていった










scince 12 May.2002


相互リンク記念にいただきました。
私の『ティーダ→アーロン』を
『ティーダ⇔アーロン』に変えたのは
そう、この方ですよ!(笑)
ありがとうございました!!




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