Breath


春に焦がれる
雪の草原を駆け巡る

その、吐息



ガガゼドの麓までやってくると、
「・・・・・・あと、少しですね」
ユウナは呟いた。

霊峰は雪景色に包まれ。
この風景は、何年経ても変化は見られない。
アーロンは、ユウナの言葉をある記憶と重ねていた。

その意味合いこそ違えど。

未だ鮮明に甦る。



「・・・・・・あと・・少しですね・・・・」
「・・・・もう、もう喋らないで下さい・・っ・・・」
まるで、今にも消えそうな灯火の如く儚く微笑む姿に、アーロンは思わず声を荒げていた。
「・・ふふ・・・そんな顔を・・・するものでは・・・ない、よ・・・」
寄せられる掌が、ひんやりとアーロンの頬を掠めた。
「・・・・・・っ・・・ブラスカ・・さまっ・・・」
アーロンの眼から思わず涙が溢れていた。

ナギ平原で繰り広げられた戦いは、想像を絶した。

究極召喚は、召喚士の命を削ってその業と成す。
ジェクトを究極召喚の獣と択し、ブラスカの生命が殺ぎ落とされながらも、シンと真っ向合い俟った。

その結果。

ジェクトを失くし
今、ブラスカも。

必至でブラスカを抱きかかえながら、ガガゼドまで立ち返ったアーロンは、自らの手がブラスカの
体温を感じなくなる事を、認めたく無かった。

ガガゼドの灰空には、再び白い洗礼が舞い落ち始める。

「・・・・ふ・・雪・・か・・・・・」
ブラスカは、そっと呟いた。



シンという哀しみは、スピラを果てしなく覆って行く。
その哀しみを止めたいというブラスカの想いが、まるで希望の欠片もないアーロンの人生に光を
翳した。
両親をシンに奪われたアーロンは、身寄りもないままベベルで僧兵となる道を選んだ。
否、それ以外に選択の余地など無かったのだ。

そんなアーロンに取って、何の私利私欲も見せずにスピラを救いたいと言うブラスカの存在を知っ
た時、何処かで翳っていた感情に色が射した気がした。
それを話した時、
「私は、そんなに綺麗な人間ではないのだよ」
ブラスカが少し悲しそうに微笑んだ事を思い出す。



「・・・・こんな、形ではなく・・・・見たかった・・です、ね・・・」

雪は、春を待つ
春を待つ
眠れる、吐息

「・・・・・・・生き・・なさい・・・」

語尾は、手の中の雪片のように淡く、じわ、と消える。

ブラスカの身体も、その雪のように、ひんやりと。

「・・・・・・・・・・・・・・っ・・・ブラ・・スカ・・・さ・・っ・・・・」

ぴくりともしない蒼白の唇に、雪が掛かる。
先程までは吐息で融けていた雪が、そのまま残る。


それが、意味するもの。


白い容貌に、更に白い雪が掛かる。
それが死化粧だと認められず、凝視することが出来ない。

腕の中に氷のようになったブラスカを抱いたまま、暫くの間アーロンは空を見上げていた。
何時しか、腕中が淡い光に包まれ、無数の小さな光となって、消えた。

それでも、アーロンは灰色の空を見上げていた。


そして、
吼えた。

獣のように、叫びとも、嘆きとも、怒りとも付かぬ、
雄叫びをあげた。




その怒りの矛先は、ザナルカンドへと。







「・・・・・・・・・・・あぁ、あと少しだ」
閉じた片眼を開きながら、アーロンは答える。

自分の『春』。
孤独というやるせなさに包まれたまま10年待ち焦がれた、開放の春。

「・・・行くッス!」
ティーダの声と共に、アーロンは歩みを進めた。

雪原を駆け抜ける風に、
春の息吹を感じる




春を待つ

貴方の吐息



待ち焦がれた

春の息遣いへ










2004.01.23

ずーっと昔に書きかけて
ほったらかしになってたモノ(笑)
イヤ。SSというより
モノローグか?







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