Chimes [ 完全版 ]

 

ボクハ カネヲ ナラス



届くと 必ず届くと 言い聞かせながら

渦巻く時間を 手探りで感じながら



そして

ボクハ イノル



 君と 奏でる

 この世が明ける終幕の 鐘の音を



 ring the Chimes・・・・























 気付くと、薄暗い闇の中だった。

「・・・ジェクト・・・?」

 アーロンは傍に居る筈の姿を探すが、見当たらない。



 いや、もう既に居るのか。

 生暖かい、だが身震いしたくなるような、湿った空気が漂う。

 そう、『ここ』はシンの中なのだから。



「・・・・ジェクト・・!」

 再びその名を呼んでみる。

「・・・おぅ・・」

 背後から、小さく声が聞こえる。

 振り向くと、いつもと同じ憎らしい程の皮肉な笑顔を浮かべ、軽く片手を挙げ、佇む姿が眼に飛び込む。



 シンという悲しみに囚われてしまった、哀れな男。

 それなのに、その瞳は変わらず昇る朝陽の様だと感じる。



 ユウナレスカとの戦いで、何もかもボロボロになってしまった自分。

 死して尚、あさましくも姿を留める自分。

 その醜い自分と反して、何という輝かしい生命に満ち溢れているのであろう。

 こんなにも、重苦しい影を背負っているのに・・・。







 だが、この男も『戦って』いる。











「・・・・こっちの眼、もうダメか・・・?」

 そっとジェクトは腕を伸ばすと、アーロンの右頬に触れ、その指を右目の傷跡に移す。

「・・・あぁ・・・・もう・・見えない・・・」

「・・・・そっか、キレーだったが仕方ねーか・・・?」

 ヒトとしてありたいと願い、自ら傷つけたにも関わらず、ほんの少しだけ悲しい。

 そして、こんなになってしまった自分を、見られたくはない。

 思わずアーロンは目線を逸らした。



「・・・まぁ、色気は増したってトコだな?」



 さらりとジェクトの告げる言葉が、ココロの隙間から入り込んでくる。

 そんな弱い自分を悟られたくは無かった。

「・・・・お前は、平気なのか・・・?」

「あぁ?平気っつーか・・・よく判らん」

 相も変らぬ、あっけらかんとした態度に、アーロンは呆れつつも安堵する。

「まったく、緊張感の欠片もない男だ・・・」

 そういい終わらぬ内に、ジェクトの両腕がアーロンの躯を引き寄せる。

「・・・ジェクト・・・!」

「・・・・・黙ってろって・・・」

 言葉の終わりと共に、その唇を塞ぐ。

 啄ばむように、何度も何度も、唇で唇を軽く噛む。

 羞恥に苛まれながら、その優しい痛みにアーロンは身を委ね始めた。



 カラ・・・ン・・・



「・・・っ・・!」

 ジェクトは弾かれたようにアーロンの躯を引き剥がした。

 背筋が凍るような戦慄。

 頭に響いて来た金属音は、ジェクトの動悸を速めるのに充分であった。



「・・ジェクト?」

 アーロンは、その青白く染まった顔を覗き込んだ。

 ジェクトの額には脂汗が滲み、自分の背に回された指は、小さく震える。

 薄く開いた唇から乱れた呼吸が刻まれ、その肩を上下に揺らした。

「・・・は・・・っ・・・」

「・・・?・・・・・ジェクト・・っ?!」

 その震える肩を掴み前後に揺らすが、ジェクトの視線は自分に向けられながらも、その先の空を眺めるように虚ろで、彷徨う。



 頭の中で響く、音

「・・・・鐘・・・・」

 ボソリとジェクトの唇が形を作る。









 止まらない鼓動を刻む



 夢は終わらない











 醒めない 夢



















 強く握った手と手を 離す

 徘徊しては その意識を蒼い海に沈めて



 言葉にできない

 言葉にならない



 神々を掃き溜めに追い遣ってゆく



























「ジェクト?!」

「・・・・あ、あぁ・・・」

 何度目かの問い掛けに、名を呼ばれた当人はようやく返答を返した。

「・・・どうか、したのか・・?」

 アーロンは不安げにその瞳を覗き見る。

 やはり、シンに囚われたことでジェクトに異変が起きていることを危惧していた。

「・・・・・なんでも、ねぇ・・・・」

 そう、小さく呟くと、ジェクトは再びアーロンの唇を奪う。



 思えば、その時から、ジェクトの変化が始まった。







 ジェクトは、セックスに関しては欲深い方であった。

 互いの感情を確認してからは、時折躯を重ねることもあったが、元々そんな余裕のある旅ではなかった。

 故に、頻繁に二人の時間を持つことは出来ず、必然的に関係を持つ一夜は、二度、三度と求められた。



 しかし、今のジェクトはそれとは少し、違う。



 いつもより、荒々しいキス。

 吸い付く様に舌を絡ませ、口内を侵食する。

 あまりに激しく深い口付けに、アーロンを必死で呼吸をする隙間を探した。

「・・・ン・・・ッ・・」

 まるで飢えた野獣が獲物を貪り喰うように、アーロンの唇を求める。

 緋の衣を引き裂かんばかりに剥ぎ取ると、強引に地に組み伏した。

「・・・ジェ・・クト・・・・ッ・・・」

 あまりに性急なジェクトの行動に、アーロンは思わずその躯を押しのける。

 だが、

「・・・嫌・・なのか・・」

 その紅く揺らめいた瞳の奥に、濁った闇が見えた瞬間、

「・・・ん・でだ・・っ!」

 ジェクトの右拳が、アーロンの左頬を掠めた。

「・・・!!」

 左頬に鋭い空気が走る。

 直接当たりはしなかったが、その拳の風圧が掠めた部分が、熱い。

「・・・なぁ・・・?」

 その熱を帯びた部分に、ジェクトは指を辿らせる。

 滑りを帯びた、感触。

「・・・・なんで・・だ?」

 そう言いながら、ジェクトは指先に纏わり付いた鮮血を、愉しそうに舐めた。

「・・・・ジェクト・・?」

 クク・・・、とジェクトが肩で哂う。



 アーロンの背筋に、冷たいものが走る。



 その血の色で紅く染まった唇を、アーロンの胸に落としていった。











 カラ・・・ン・・











「・・・なんだか、まだ足りねぇなぁ・・・・」

 ボソ、とジェクトが呟いた。







 薄暗い闇に、乱れた吐息が漂う。



「・・・も・・・・やめ・・・ぁ・・・」



 何度、昇り詰めたのか。

 いや、

 何度、昇らされたのか。











 カラ・・ン











 アーロンは、瞼を閉じる。

 ほんの少し前の、彼の様子を懐古することさえ、懐かしい。







 ガッ・・・



 鈍い痛みを鳩尾に感じて、アーロンは現実に引き戻される。

「・・・っぐ・・・ぅ・・・」

「・・・・寝てんじゃ・・・・ねーよ・・・」

 痛みを庇うように丸くなるアーロンを、ジェクトが見下すように視線を浴びせる。

「・・・ジェクト・・・やめ・・・」

 微かに彼を見上げながら横たわるアーロンの真横に仁王立ちになり、

 ガッ・・

「・・・ぁ・ぐ・・っ」

 再び腹を蹴る。

「・・・・あぁ?・・どーした?」

 しゃがみ込んだジェクトは、苦しそうに悶えるアーロンの顔を覗き込んだ。

 腹を抱える両腕を引き剥がし、自分の両手でアーロンのそれを地に押し付け、拘束する。

「・・・なぁ、まだイキ足りてないんだろ・・・?」

 ジェクトの瞳が、血のように紅く血走る。

「・・・ちが・・う・・・っ・・・」

 ジェクトは、顔を背けるアーロンの首筋に噛み付く様に舌を這わせた。

「・・・も・・・やめ・・て・・くれ・・・っ・・」



 意識を失う度に、鳩尾を蹴られ、頬を殴られる。

 何度も絶頂を迎えさせられ、もう激しく抵抗するだけの力は残ってはいなかった。







「・・・・どーだ・・・?もう、満足か・・・?」

 もう限界近く搾り出された欲望は、アーロンの体力を確実に削ぎ落としていた。











 カラ・・・ン・・・カラ・・ン・・











「・・・・アーロン・・・?」

 朦朧とするアーロンの頬を軽く叩く。

 マチワビタ コイ



 ぐったりとしたアーロンは、返事を返すだけの気力も残されてはいなかった。



「・・・・アーロン・・・」

 ジェクトは両掌でアーロンの顔を撫でる。

 マチコガレタ キミ



「・・・・すまん・・・オレは・・・」

 唇を噛む。

 ハキダメ ニ オイコム



「・・・オレは・・・っ・・・」

 アーロンの上体を引き寄せ、きつく抱き締めた。

 シズメル



 そんなジェクトの叫びが木霊する中、アーロンの意識は薄れていった。















 どんなに重ねても 孤独と言い聞かせるだけ

 死の螺旋という果ての 掌で踊るだけ



 逆流する時を 宙吊りになりながら

 そして

 ボクト カナデヨウ















 一体、何時間もの間、意識を失っていたのか、アーロンにも判らない。

 意識が戻った時には、ジェクトの姿は、再び消えていた。



 上体を起こそうとすると、全身に鈍い痛みが走る。

 体中に残る紅い痕は、愛の証と、痛みの証。



 アーロンは先程のジェクトを思い出し、身震いした。



 あんなに暴力的なジェクトの行為は初めてである。

 元々、品位が高いとは思えない行動ばかりであったが、躯を重ねる時は愕く程に優しい男であった。

 口先ではどんな言い方をしても、決して無理強いは、しない。

 それなのに。







 自分の意識が途切れる最後の記憶の中で、ジェクトは泣き叫ぶように、自分を呼んでいた。

 腹の底から、血を吐くように、何度も、何度も。



 どんなに、苦しんだのだろう?



「・・・ジェクト・・・」

 思わず、アーロンの目頭が熱くなる。



 きっと、ジェクトは自分以上に苦しかったに違いない。



「・・・ジェクト・・ッ・・!!」

 再び、身を裂くような声で、その名を叫ぶ。











 だが。



 二度とその姿を見ることは、無かった。















 数時間経った頃、アーロンの視界に強烈な光が流れ込む。

 薄暗い『シン』の中のその奥に、眩い輝きが放たれる。



 アーロンは、戸惑いながらその光に近寄った。



 その輝きを抜けた先の景色に、アーロンは呆然とする。



 ざわめく雑多な音。

 人々の笑い声、叫び声。

 そこは、ネオンと機械に溢れた都市。



「・・・ザナル・・カン・・ド・・?」

 思わず漏らしたその言葉。

 ジェクトから聞かされた、その故郷とあまりに重なる光景。

 暫し、声を奪われたように魅入る。

 恐る恐る歩みを進め、周囲を見渡した。



 途端、自分の背後の空気が揺れ、その気配に振り返る。



 『シン』が宙に浮き始めていた。



「・・・ジェクトッ!!」

 駆け寄ってゆくが、その姿はどんどん高く高く昇って行く。



「・・・ジェクト・・・!」

 天を仰ぎ、もう一度叫ぶ。



 ジェクトは、ここへ自分を運んだ。

 以前、約束した『息子のこと』。

 そして、











「・・・ジェクト・・・」

 自分を護る為。







 『シン』は、空中へと消えていった。











「・・・待っていろ・・・ジェクト・・・・」



 必ず、救ってやる



 アーロンは、真正面を見据えると、一歩、その地を踏み締めた。























 いつか

 君と 奏でよう

 僕と 奏でよう











 ring the chimes











 終幕の 鐘の音を






scince 5 Apr.2002〜11 Apr.2002












以前、触りだけをUPして
その完全版を一応・・・(文章力不完全)

ちなみに『真・完全版』(笑)を
近いうちに裏へ・・・

 

 

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