「ブラスカ様・・・」
召喚士の振り返った先には、先程と比べれば、生気の篭った瞳をしたアーロンが立っていた。
口籠るアーロンを他所に、ブラスカは天を仰ぐ。
「・・・静かな、ところだね・・・」
もう真っ暗に等しい空は、灰色の雲に覆われ、時折、その隙間から僅かばかりの月が顔を出す。
空気は、凍りそうな程冴え冴えとしていた。
「・・・・申し訳、ありませんでした・・・・」
「・・・何の、ことかな?」
業とらしく、白々しい返事をブラスカは返した。
「・・・貴方の決意を、理解していたつもりで・・・・解っていなかったんです・・・」
ふふ、とブラスカ口元から笑みの混じった吐息が漏れる。
「そこが、君らしいんだが、ね」
「・・・それでも・・・ちゃんと貴方に、言いたかった・・・」
アーロンは、ブラスカから眼を逸らさず、言葉を紡ぐ。
ブラスカは、心の内で、ほくそえんだ。
「・・・・君は、私の一番のガードだよ・・・」
笑って、逝ける。
誰よりも気高く、そして、誰よりも脆い、この宝物を、護るものがある。
だから私は、笑って『逝ける』。
「ちゃんと、言ったじゃねーか」
ブラスカの元から歩んで来たアーロンに、ジェクトはニヤニヤとしながら言葉を掛けた。
「・・・・聴いていたのか、悪趣味め・・・」
「仲間を心配してると言ってほしーねぇ」
思わず、きつく閉じられたアーロンの唇が緩む。自然と微笑みが毀れていた。
「・・・おまえ、変な奴だな・・・」
最初は、まるで信頼などしようもなかったこの男に、今は不思議なまでに心を預けている気がした。
「・・・・感謝・・する・・・」
消え入りそうな、小さな声だった。
「・・・あぁん?」
業とらしく聞き返すジェクトに、アーロンは背を向けその場を足早に去った。
「・・・・ったく、スナオじゃねーなー・・・」
憎まれ口を叩きながらも、ジェクトは柔らかな表情をしていた。
ザナルカンドに置いてきてしまった息子に、してやれなかったこと。
あの、危なっかしい若者を、息子の代わりに、護ってやりたい。
だからオレは、鬼にもなれる。
夜が明けると、一行は遺跡に向かって出立した。
道中の魔物を薙ぎ払いながら、一歩一歩、目的地へと近付いて行く。
総ては、スピラの悲しみを、途絶えさせる為に。
だが。
「貴方の召喚獣は、誰?」
絶望は、まだどん底ではなかったのだ。
流れる雲の隙間から、見え隠れする月は、今にも雲に浚われ、この世界から消えて無くなってしまいそうであった。
scince 4 Feb.2002
ごめんなさい。
更に続いちゃいます・・・。
|