真昼の月 2

Bfore

 

「ブラスカ様・・・」

 召喚士の振り返った先には、先程と比べれば、生気の篭った瞳をしたアーロンが立っていた。

口籠るアーロンを他所に、ブラスカは天を仰ぐ。

「・・・静かな、ところだね・・・」

 もう真っ暗に等しい空は、灰色の雲に覆われ、時折、その隙間から僅かばかりの月が顔を出す。


 空気は、凍りそうな程冴え冴えとしていた。


「・・・・申し訳、ありませんでした・・・・」

「・・・何の、ことかな?」

 業とらしく、白々しい返事をブラスカは返した。

「・・・貴方の決意を、理解していたつもりで・・・・解っていなかったんです・・・」

 ふふ、とブラスカ口元から笑みの混じった吐息が漏れる。

「そこが、君らしいんだが、ね」

「・・・それでも・・・ちゃんと貴方に、言いたかった・・・」

 アーロンは、ブラスカから眼を逸らさず、言葉を紡ぐ。

 ブラスカは、心の内で、ほくそえんだ。

「・・・・君は、私の一番のガードだよ・・・」


 笑って、逝ける。

 誰よりも気高く、そして、誰よりも脆い、この宝物を、護るものがある。

 だから私は、笑って『逝ける』。



「ちゃんと、言ったじゃねーか」

 ブラスカの元から歩んで来たアーロンに、ジェクトはニヤニヤとしながら言葉を掛けた。

「・・・・聴いていたのか、悪趣味め・・・」

「仲間を心配してると言ってほしーねぇ」

 思わず、きつく閉じられたアーロンの唇が緩む。自然と微笑みが毀れていた。

「・・・おまえ、変な奴だな・・・」

 最初は、まるで信頼などしようもなかったこの男に、今は不思議なまでに心を預けている気がした。

「・・・・感謝・・する・・・」


 消え入りそうな、小さな声だった。

「・・・あぁん?」

 業とらしく聞き返すジェクトに、アーロンは背を向けその場を足早に去った。

「・・・・ったく、スナオじゃねーなー・・・」

 憎まれ口を叩きながらも、ジェクトは柔らかな表情をしていた。


 ザナルカンドに置いてきてしまった息子に、してやれなかったこと。

 あの、危なっかしい若者を、息子の代わりに、護ってやりたい。

 だからオレは、鬼にもなれる。


 夜が明けると、一行は遺跡に向かって出立した。

 道中の魔物を薙ぎ払いながら、一歩一歩、目的地へと近付いて行く。


 総ては、スピラの悲しみを、途絶えさせる為に。


 だが。


「貴方の召喚獣は、誰?」


 絶望は、まだどん底ではなかったのだ。




 流れる雲の隙間から、見え隠れする月は、今にも雲に浚われ、この世界から消えて無くなってしまいそうであった。





scince 4 Feb.2002










ごめんなさい。
更に続いちゃいます・・・。

 

 

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