真昼の月 3

Bfore

 

 ブラスカが、究極召喚を手にした。



 それは、ジェクトの存在と引き換えの選択。



 ユウナレスカが究極召喚について語り始めた瞬間、アーロンは言葉を失った。

 ブラスカが生命を賭けた覚悟を持っていることは、納得する・しないは別として、予め測られていたこと。

 しかし、それに加え、ガードの肉体が必要であるなどどは、夢にも思わなかった。



 そして、ジェクトが名乗りを上げた。



 ユウナレスカに一日の猶予を貰った一行は一旦神殿を離れ、昨晩の野営地と舞い戻った。

「・・・取り合えず、明日までゆっくりしましょうか」

 いつもと変わらない、ブラスカの微笑み。

 だが、きっとその胸中に巡るものは深いに違いない。そんな考えがアーロンの脳裏を過った。

 ブラスカだけが、ブラスカ独りだけが、この戦いで生命を賭けているのだと思っていた。

 無論、危険な旅路故、ガードであっても油断すれば後はない。

 しかし、それとは異なる『召喚士の覚悟』。



 自分には、ブラスカの苦悩を癒すことは出来ない。

 いつもそんなことばかり考えて旅を続けて来た。

 しかし、ジェクトの一言で、自分の中の甘さを知る。

 アーロンは、その時から後ろを振り返らないと決めたのだ。

 例え、最後の戦いが全て終わって、ジェクトが自分のザナルカンドへ帰って行っても、この男が何処かで自分を叱咤している。

 同じ哀しみを共有しているからこそ、万一ブラスカが去って行っても、何時かは前を向いて行ける。



 だが。



 混沌とした苦悩を抱えたまま、アーロンは野営地から少し離れ、瓦礫に埋もれた小高い丘へ向かった。



「・・・・ジェクト、ひとつ聞いてもいいだろうか・・?」

「・・・おぅ、なんだ?」

 小さな焚火を穏やかに見詰めながら、ブラスカは炎の向こう側の男に言葉を続けた。

「・・何故、貴方が・・・?」

 召喚獣になってくれるのですか、という言葉は敢えて続けなかった。

「・・・オレ様にも・・・よくわかんねぇや」

 ジェクトは立ち上がり背を向けると、やや暮れかかった空を見上げる。

「ホントのトコ、ザナルカンドに帰るのは諦めちゃいねぇ・・・」

 灰色の、今にも泣き出しそうな空に、白い月が溶け込みそうであった。

「・・・では、余計に何故・・・?」

 生暖かい、湿気を帯びた風が、二人の間を駆け抜ける。

「・・・・このままだと、アイツが潰れるんじゃねぇか・・・ってなぁ・・・」

 ブラスカは少しだけ俯くと、ほとんど判らない程度に苦笑する。

「・・・あの子の心は、ガードとして脆過ぎなんです・・・」

「・・・・・あぁ」

 その微妙な笑みを、ジェクトは見逃しはしなかった。

 どんな意味を表すのかは、深くは考えまいと受け流す。

「ありがとう」

 突然のブラスカの言葉に、ジェクトは眼を丸くする。

「何だぁ、突然?」

 今度は、はっきりと判るようにブラスカが苦笑した。

「名乗り出てくれて、感謝します」

「何でそんなにシオラシイんだぁ?気味わりぃ・・・」

 今度は苦笑ではなく、ふふ、と口元を歪めたブラスカは、すぐにその笑みを止めた。

「・・・ブラスカさんよ・・・あんた、マジでアイツが大事なんだな・・・」

「そうですよ」

 ブラスカは真顔でさらりと答えた。

「・・・んだぁ?ちったぁ否定しろって」

「否定したら納得しますか?」

 ジェクトは舌打ちをし、言葉を続ける。

「本人には黙っといて、何でオレ様に言うかねぇ・・・?」



「一生、言いませんよ」

 再び、ブラスカが微笑む。



 序々に周囲が光を落としてゆく。

 天の紅は、目線を下げる毎に闇色に染まる。

 その微妙なグラディションの中央に、ぼんやりと、溶け込みそうな大きな光。

 頂点に浮かぶ月を、アーロンは、唯呆然と見詰めていた。



「自然の芸術ですね」

 思いがけない声に、弾かれたように振り替える。

「・・・ブラスカ様・・」

 いつの間にかアーロンの真後ろに佇み、いつもと変わらぬ笑みを浮かべる。

 どう言葉を掛けていいのか判らず、アーロンは押し黙ったまま、自分の隣に腰を下ろすブラスカを眺めた。

「・・・私はね・・・・あの月に、なりたいのだよ」

「・・・え・・?」

 突然の言葉に首を傾げる。

「太陽は、常に人々を照らして恵みを与えるでしょう・・・」

「・・・はい・・」

「常に人々は、太陽に向かって歩む」

「・・・・は、はい・・」

 ブラスカの言わんとしていることが中々掴めず、アーロンは頷くばかりであった。

「そして、歩き疲れた人々が安らぐ夜に、安息の光を与えたい・・・」

 ブラスカは、すぅ、と軽く息を吸い込んだ。



「故に、シンを倒すのです」



 もう、アーロンから言葉を掛けることは出来なかった。



 ブラスカの『覚悟』は、ここまで来ている。



「・・・・はい」

 そう、答えるだけで、精一杯であった。



「アーロン、もう休みましょう」



 その綺麗な微笑みが、アーロンには、先程まで夜空に浮かんでいた闇に同化してしまいそうな銀色の月と重なって見えた。





 明日、ブラスカは月になる。





scince 4 Mar.2002










ごめんなさい。
この上、更に続いちゃいます・・・。

 

 

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