パチパチと燃える炎の音だけか響く。
時折、虫の鳴き声が混じり、一層物寂しい光景に彩りを添えていた。
浅い眠りを行き来していたアーロンは、小さな虫の羽音で完全に感覚が研ぎ澄まされてしまっていた。
何度か寝返りを打ちながら、夜空を見上げる。
先程までの泣き出しそうな夜空が嘘の様に瞬く星達。
ふと、目線を降ろすと、岩壁に凭れる様に眠りに落ちるブラスカと、その向こう側に地に転がったまま寝息を立てるジェクトの姿があった。
アーロンは思わず呼びかけてみる。
「・・・・ジェクト、寝ているのか・・・?」
一定の呼吸を刻んでいた背中が、一瞬ピクリと動いた。
「・・・・どーした?」
多分、眠ってはいなかったのであろう、ジェクトはゴロリとこちらに向き直る。
「・・・いや、その・・・・少し・・・話さないか?」
「・・・・おう・・・」
よっこらっしょ、と態と気だるそうに起き上がると、ジェクトは胡坐をかく。
「・・で、なんだ?」
急に話を振られると、逆にアーロンが戸惑う。
「・・・その、ブラスカ様を起こしてしまうから・・・あちらへ・・行こう・・・」
そう言いながら素早く立ち上がり、その場を離れた。
ジェクトは、黙ってその後に続いた。
去ってゆく二人の背中を、いつの間にか目を覚ましたブラスカの深蒼の瞳が優しく見送った。
「・・・・・ここぁ、寂しいトコだよなぁ・・オレ様のザナルカンドと偉い違いだ」
首筋をボリボリと掻き毟りながら、ジェクトは廃墟の都市を見下ろした。
「・・・・・・・」
アーロンは、自分の返すべき答えを迷い、押し黙る。
ジェクトは、還りたかったのだ。
自分を待っている筈の家族の元に、故郷に。
急に、自分の脳天に大きな温かい感触をアーロンは感じた。
そのまま、クシャクシャに髪を掻き回される。
「・・っ・・な・・・・」
「まーた、おめぇ余計なことばっっか、考えてんだろーが?」
ジェクトはアーロンの髪に指先を絡めながら、悪戯っぽく笑った。
「・・・ジェクトっ、よせ・・・」
必死で、その掌から逃れようとするが、逆にその肩を空いた手に掴み取られた。
一瞬、自分を見詰めるジェクトの真摯な眼差しに、アーロンはドキっとする。
「いいか、オレ様を勝手に悲劇のヒーローなんぞにしてんじゃねーぞ」
口元を歪め、白い歯を見せるが、瞳は笑ってはいなかった。
「あン時、名乗り出たのは、自暴自棄になったからでも、ただおめぇを庇った訳でもねぇ」
そう言いながら、ジェクトはくしゃくしゃに乱したアーロンの髪を優しく梳く。
「いいか・・・『あれ』はオレ様の役目だ」
「・・・役目って・・・それは・・!」
反論しかけたアーロンの頭を、再び掻き乱すジェクトの掌。
「・・・オレ様にはオレ様の、オマエには・・・オマエの役目があンだよ・・!」
そのジェクトの言葉が、アーロンの心の一番深い場所を激しく揺さぶった。
「・・・俺の、役目って・・何だ?」
不安そうに呟くアーロンの声に、ジェクトは再びニヤリと笑うと、その背中をバチンと叩いた。
「・・・っ!ジェクト・・っ」
いきなり肺の裏側に衝撃を受け、アーロンは一瞬咽返りそうになりながらジェクトを睨み付けた。
「・・・自分の役目っつのはなぁ・・・」
アーロンの目線を掴み取る様に、両のこめかみを押さえ込み、ジェクトは自分への視線を固定させる。
「・・・・そン時が来たら、『ここだ』って思うモンよ!」
ジェクトが微笑む。
その、今まで見たことのない、柔らかい暖かい太陽の日差しにも似た眼差しは、アーロンを捕らえて離さなかった。
アーロンは、この男の中の『強さ』が、その微笑のように眩しかった。
夜風がサラリと二人の脇を駆け抜け、白い月を覆い隠した薄曇を流して行った。
「では、行きます」
ブラスカは、いつもと同じ柔らかい微笑みを浮かべる。
「・・・・はい」
アーロンの瞳に、迷いは無かった。
「んじゃぁ、ちょっくらオネーチャンに会ってくらぁ!!」
片手を軽く上げ、ジェクトはアーロンにいつもと同じ不敵な笑みを見せた。
「・・・遊びに行くんじゃないぞ」
アーロンの声に、憂いは無かった。
朝日に照らされたザナルカンド遺跡の神殿は、初めて見た時よりも威厳を放っていた。
強い光を放つ太陽に隠されてしまった真昼の月は、自分の輝く時を待つように、息を潜めて緩やかに浮かんでいる。
scince 14 Mar.2002
あとちょっと!!
あとちょっとで終わりです!!
ホント、ゴメンナサイ・・・(泣)
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