「オマエとセックスしたい」
あまりに唐突で、ストレートな言葉に、アーロンは反論の術を失った。
「・・・・まだ酒が抜けないのか?」
「・・オレ様は素面だぞ」
酌み交わしたグラスを軽く掲げると、ジェクトは白い歯を見せてニヤリと笑った。
恐らく、隣室のブラスカはもう眠りに着いたであろう。
旅も半ばを越え、アーロンのジェクトに対する意識にも余裕が生まれつつあった。
最初は胡散臭いとしか思えなかったこの男の本質が、朧げながら見え始めた頃であった。
「素面な奴はそんなことは言わん・・・」
平静を装いながら、アーロンはジェクトから視線を逸らした。
「・・・第一、俺は男だ・・」
心臓は情けないくらいに逸っているのを、決して悟られまいとして、手にしたグラスを一気に空にする。
脳内に広がったアルコールが、逆に全身の血流速度を増した気がした。
確かに、ジェクトは魅力的な男だと思う。
だがしかし、いくらこれ程のいい男とはいえ、男相手に一夜を共にしたいとは思わない。
筈なのだが・・・。
「・・・オレ様だって、ヤローに欲情するシュミはねぇよ」
再び口元を歪めて微笑むと、掲げたグラスに口を付ける。
タン、と空になったグラスをテーブルに置くと、ジェクトは自分の席から立ち上がる。
ゆっくりと歩みを進めると、アーロンの目の前で留まった。
アーロンはその姿を真正面から見ることが出来ず、俯いたまま言葉を出せずにいた。
急に、ぐいっと顎が持ち上げられる。
思わず身体が後ずさる、が、その肩をも掴み取られ動けなくなった。
「・・・・けどよ・・・・」
ジェクトは、ほぼ強引に目線をアーロンと絡める。
「・・・オマエ見てると・・・・」
そのまま腰を落として、唇を寄せる。
「・・・首筋、ゾクゾクすんだよ・・・・」
噛み付くように唇を奪った。
あまりの出来事に、アーロンは身動きひとつ出来ずにいた。
ジェクトのなすがままに唇を絡め取られる。
啄ばむように唇を重ね、上唇を軽く舐め取り、唇を離した。
口内に広がる、強いアルコールの残り香。
「・・・・オレとしてみるか?」
耳元で響く、甘く、掠れた、呪文のような声。
「・・・そんなことして・・・何になる・・・?」
喉から心臓が飛び出さんばかりの動悸に、アーロンの声は震えた。
ジェクトがその背中を引き寄せ、折れんばかりに抱き締めた。
「・・・・・してみりゃ、わかるんじゃねぇの?」
その返答に、アーロンは再び言葉を失う。
「・・・そんなに単純な・・ものなのか・・・?」
「・・・・ンなこと言ったってよぉ・・」
抱き締めた身体を少し離して、口篭もるアーロンの表情を覗き込んだ。
「タダの欲求処理で男と寝たいとは思えん」
もう一度、今度は軽く口付ける。
「でも、オマエとはキスしたいって思っちまうんだよなぁ・・・」
自分の中の不思議な感覚を、本当に理解できないらしく、首を捻りながら唸るジェクトの姿に、アーロンは溜息を吐く。
「・・・・それは・・俺に何か・・・その、特別な・・・感情がある・・・のか・・?」
躊躇いながら、搾り出すように問い掛けてみる。
「わからん」
「・・・はぁ?」
きっぱりと応えるジェクトに、思わずアーロンは驚愕の声を上げてしまった。
「わからんから、セックスしてみようって言ってンだけどな」
「・・・・・・唐突過ぎだ・・・」
あっけに取られるアーロンを、もう一度ぎゅっと抱き締める。
「いいんじゃねーの?」
「その意味、確かめようぜ・・・」
scince 19 Mar.2002
ジェクトって恋愛不器用に見えるんです
本人自覚のない恋愛オンチ(笑)
これと対になるものを裏へ置きます
でも私のコト、期待は持たない方が・・・
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