若紫日記わかむらさきにき

 

スピラ歴 ××05年  初夏 20日
 この出逢いは、「運命」なのか「宿命」なのか。



 気付いたら、ここにいた。

 物心がついた時には、小さな孤児院で生活していた。

 14歳までに里親や後見人が見つからなかった者は、この孤児院を出され自立生活を始めることとなる。10歳になった自分は、もうベベル宮で僧兵になろうと決めては、いた。

 だが。


 孤児院の庭で、多くの孤児達が戯れる。
 しかし、自分はどうしてもその子供達に紛れて遊ぶ気にはなれずにいた。

 冷めているという程ではなかった。また、大人に媚を売るほど計算をしているつもりもなかった。


 自分は『ここ』ではない『どこか』を捜していたのかもしれない。


「今の時間は皆、こちらで遊んでおりますよ」

 孤児院長の声が、遠くから聴こえた。誰かと共に、院長室から出てきたようだった。
 時々、孤児の里親に志願してくれる大人が、こうやってここを訪れる。

「・・・大勢、いますね・・・」

 静かな声。

 綺麗な蒼銀の髪が目に留まる。

 思わず、その人の目線を追ってしまう。

 そして、その視線がこちらに向けられた瞬間、自分の身体が硬直したのが判った。

 なんて綺麗なひとなのか、子供ながらにそう感じた時、

「・・・・あの子が、いいですね。」

 その薄い唇が、言葉を模る。

「では、呼んできましょうか」

「あぁ、結構ですよ」

 院長の言葉を優しく制するとそのまま踵を返し、室内へと帰っていくその背中を、ただ、見送った。

 その姿は鮮明に焼きつき、暫し脳裏を離れることはなかった。


 数日、呆然とし続けた自分に、院長から声が掛かる。

 自分に里親志願者が現れた、と教えられた。

 その名を ブラスカ と言った。


 気まぐれだったのかもしれない。

 自分でなくてもよかったのかもしれない。

 だが。

 あの時、あのひとに囚われた自分がいる。


 幸か。

 不幸か。





scince 21 dec.2000














大好きな huyuさんと
大好きな こみちさんに
敬意と 誠意と 微力な応援を込めて

 

 

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