バラ色の人生


「おい、ジェクト・・・。」
「あー、なんだぁ?」
やや怒りの混じったアーロンの声とは裏腹に、緊張感のない返事のジェクトだった。
「なんだでは、ないっ!」
 アーロンの言葉尻は完全にブチ切れていた。
「何故こんなことになってるんだぁ!!」
 周囲は断崖絶壁。
 見回しても民家・明かりは無し。
 そして泥まみれのアーロンの目の前にいるのは、同じく泥まみれのジェクトのみ。
 どっぷりと日も暮れ、夜空には幾千もの星達が煌めいていた。今宵は満月で、月明かりが美しい。
「だってよぅ、まさかあんな茂みから魔物が出てくるたぁ、この俺様でも予想がつかねぇって!」
「威張るなっ!!」
 偉そうに胸を張ってみせるジェクトの後頭部を、アーロンの拳が間髪入れずに殴り付ける。
「いってぇ!グーで撲んなグーで!!」
「やかましい!何故一人で落ちずに俺を巻き込む!!」
「まーまー、俺様とおめぇの仲じゃねぇか!」
 がはがはと笑い出すジェクトに、アーロンは腰からスラリと抜いた太刀を構えた。
「・・・斬る!」
「すんません、アーロンさん、凶器はナシですぜ。」
 本当の処、ふざけている場合ではなかった。 

 事のあらましはこうだった。
 寺院の都合で別行動となったブラスカを二人で送り届け、そのまま物資の補充に出た。
が、宿の売場は大幅に品不足で、仕方なく付近の街まで足を延ばすこととなる。その途中、
ジェクトがフザケて蹴飛ばした石が茂みに飛んで行き、その中から魔物が・・・・。
 そして、この現状に至る。

 座り込んだ二人は、転がり落ちて来た崖をマジマジと眺める。高さは大したことはない。
問題なのは、90度にも等しい角度と、足場になるような凹凸が全く見られないという事だろう。
 更に、ジェクトのまだ知らない事実として、アーロンの左足の打撲というものまであった
のだ。
    
 アーロンは寺院で待ち合わせているブラスカのことが気になっていた。
「ブラスカ様は大丈夫だろうか・・・。」
「襲うヤツのが気の毒だろうよ・・・。」
 最近のブラスカのスフィア盤が、黒魔法ゾーン(しかも強力攻撃系)に入って行ったのを
アーロンは思い出した。
「と、とにかく、一刻も早く戻らねば・・・。」
 立ち上がったアーロンが、急によろけてバランスを崩す。
「おい!」
 咄嗟にジェクトはアーロンの身体を受け止めた。
「す、すまん・・・!」
 慌てて自力で立とうとするアーロンの腕を、ジェクトはぐいっと引っ張った。
 痛めた左側の足に重心が掛かる。アーロンは思わず苦痛に顔が歪んだ。
「・・・足か!」
 気付かれた。
「見せてみろ。」
「だ、大丈夫だ!」
 バカが付く程、真面目でプライドの高いアーロンは、ジェクトの負担になるのを酷く嫌がった。
 だか、当のジェクトはそんな事はお構い無しだった。無理矢理アーロンを座らせると、
衣装をたくし上げ傷を探し出す。
「お、おい、平気だって!」
 いきなりのジェクトの行動に、逆にアーロンが驚いていた。
「このジェクト様をゴマカすなんざ10年早ぇや!」
 アーロンの足首は、自分で思う以上に強打していたらしく、かなり真っ赤に腫れ上がっていた。
「・・・っつ・・!」
 ジェクトが軽く傷に触れた途端、呻き声が洩れる。
「見ろ!ったく、なんかねぇか?」
「全っ部、上だ。誰かのお陰でな。」
 ジェクトが、舌打ちしながら面目なさ気に頭を掻いた。
「もういいから、行け。」
「あぁん?」
 突然のアーロンの言葉にジェクトは小首を傾げる。
「お前だけでも、何とかブラスカ様の元へ・・・」
 言い終わらない内に、ジェクトがアーロンを横抱きに抱え上げ、スタスタと歩き出した。
「ちょっ・・・、ジェクト!降ろせ!!」
「うっせい!詰まらねぇ事言いやがって!」
「というか、お前、何処行くんだ?」
「ん?方向はあってんだろ。どーにかならぁ!」
 なんて行き当たりばったりな・・・と、アーロンは頭を抱えた。
「ジェクト・・・。」
「なんだ?」
「その、せめて・・・背中に背負ってくれた方が・・・」
「モンスターが出た時ぁ、この方が楽なんだよな。」
 横抱き(いわゆるお姫様だっこってヤツ)にされてしまうのは、男として悲しいものがあるのだが、
ジェクトの言うことももっともだった。
 自分を降ろしてから敵に対して構えを取ることを考えれば、この方が都合はいいだろう。
 アーロンは深々と溜息を吐くと、仕方なくそのまま大人しくすることにした。
「すまん・・・、いつか借りは返す。」
 そんなアーロンをジェクトがまじまじと見詰める。
「アーロン、おめぇ・・・。」
「・・・どうした?」
 ジェクトは、抱えているアーロンの身体を軽く浮かせ、ニヤリと笑った。
「かっる〜!ちゃんと食ってんのかぁ!?」
 そのまま、赤ん坊をあやす様に、左右にユラユラとアーロンを揺らす。
「こんなんじゃあモンスターにサラワレっちまうぞぉ!」
 高らかにジェクトの笑い声が響き渡った。その腕の中で、わなわなと震えるアーロンの姿は目に
入っていないようだった。
「・・・ふざけるなっ!」
 右手でジェクトを殴りにかかるが、器用に上半身を捻って交わされる。その反動で
アーロン自身がバランスを崩し、ジェクトの腕から落ちかける。
「おっとぉ!」
 寸前でアーロンの身体を支えたジェクトは、腕に抱えたその背中をぐいっと自分に引き寄せる。
 互いの顔の距離が迫った。
「おめぇ、なんか可愛いなぁ!」
「・・・はぁ?」
 突拍子もないその台詞に、アーロンの目が丸くなる。
「なんちゅーか、気の強いキムスメと話してる気分っての?」
「・・・きっ・・・・!」
 あまりの発言にアーロンは一瞬言葉を失う。
「お、俺は女ではない!」
「わかってますよ〜、アーロンちゃん!」
 そう言いながら、益々顔の距離を縮めて来る。
「ジェク・・・」
 怒鳴りかけた途端、ジェクトの舌が、アーロンの上唇をペロッと舐めた。
 アーロンが固まる。
 数秒かけて、今起きた出来事を把握しようと考えた・・・結果。
 一気に顔が紅潮し始める。
「・・・おっ、お前・・なんてことをぉ・・・!!」
 ジェクトの頭に巻かれたバンダナをぐいぐい引っ張りながら、アーロンが暴れ出す。
「おい、暴れんなって!落っこちるぞ!!」
「もういい!降ろせ!お前に抱えられてる方がよっぽど危険だ!!」
 やや涙目で必死に訴える姿が、更にジェクトの悪戯心を刺激するのに気付いていないアーロン
であった。
「へいへい、今日はもうしませんよ〜。」
「今日は!?」
「続きは今度、おめぇが完治したらなぁ!」
「そういう問題じゃないっ!!」
 アーロンの必死の訴えは無視しているのか、ジェクトはカラカラ笑ったままアーロンを抱き
抱えて歩いていく。
「まぁ、俺様に任せときゃぁ人生バラ色よ!」
「・・・人生真っ暗だ・・・・・。」
 アーロンの憂鬱は、まだまだ続きそうだった。

 尚、この崖が、地元の民なら誰でも知っている抜け道で、暫く行くと上道と繋がる・・・という事を
二人が知るのは、もう少し後のこと。

    
 追記:その夜半過ぎ、ジェクトが、「腹の中お怒りオーバードライブ:ブラスカ様」の黒魔法の
実験台になったとかならないとか・・・。(お祈りポーズ)









2004.02.11改正

Secret Heaven様に
強引に送りつけたモノ。
今思うと、これが私の初めての
ご一行作品デス。
はっきし言って文章はつたなくて、
キャラもありえんくらいオトメなんで、
許せないトコばっかなんですが
あえて修正をせずにこのままノッケマシタ。

まぁ、原点ってコトで。
・・・・イイワケ(爆)





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