ココロノヤミ


「おはようございます、ブラスカ様。」
「ああ、今回の護衛は君だったんだね、アーロン。」
 礼儀正しく言葉を交わすアーロンに対して、ブラスカはにっこりと微笑む。
 相変わらずの綺麗な笑顔に、アーロンは思わず眩しそうに目を細めてしまう。
 3年前、初めてブラスカに出逢った時、あまりに不可思議なことを言われ、アーロンは
戸惑った。だが、正式に僧兵となった後、何度か任務の際にブラスカと顔を会わせ、その
ひととなりに好感を抱くようになった。
 ブラスカは、他の僧官と違い、常に未来を見つめていた。どうすれば、スピラの人々を
幸せに出来るのか、気が付けばブラスカの話題はいつもそこにあった。そして、その為
には、アルベド族でも関係なく、知恵を借りたいと、この旅を始めることとしたのだ。
 もちろん、ベベルのブラスカへの反応は冷ややかなものであったが、寺院の僧官という
立場にある彼を、たった一人で行かせるには世間体が悪い。申し訳程度に新人の兵を
一人、護衛として同行させることになった。
「自分から志願してくれたと、聞いたんだが・・・」
「はい。」
「物好きだと言われなかったかい?」
「はい、あ、いえ・・・でも、俺は同行させていただけて、光栄です!」
 率直な返事が返ってくる。ブラスカは、この純粋な青年の心が嬉しかった。
 アーロンが、恐らく自分に、恋にも似た、淡い「憧れ」を抱いていることを、ブラスカ
は知っていた。
 そして、その心を、踏み躙る自分がいることも知っていた。

 幼い頃から、ブラスカには不思議な力があった。
 「予知」
 何となく、未来を感じてしまうのである。
 自分の人生ですら、既に見てしまった様に、判り切っていることなのだ。
 アーロンに出逢った時にも、同様に感じ取った未来があった。僧兵になりたいと言っ
た彼の夢が叶わないのは、間違いはない。
 彼の未来は、何れ自分のそれと繋がる。
 だが、それは、何れ『シンと共に滅びる』という運命をも共有するという事であった。

 正直、今まで出逢った人々にも『死』が見えたことは数え切れないくらいあった。しか
し、消え行く命への哀愁こそあれど、運命に逆らうなどできないと知っているブラスカは
それを黙って見送って来た。
逆に何もできない虚しさが、いずれ自分が、一時ではあるが、シンを倒し『ナギ節』を
作り出せるという想いへの糧としてきた。

しかし、アーロンにだけは今までとは違う感覚がある。

「・・・ブラスカ様?」
「・・ああ、すまないね、少し考え事をしてしまったよ。」
ブラスカは、現実に意識を戻した。
「行こうか、アーロン。この砂漠を抜けたところらしいから。」
「はい。」
 今は考えても仕方のないことだと、自分に言い聞かせ、アルベドの「ホーム」と呼ば
れる隠れ家に足を踏み入れた。
 予想通り、アルベドの非歓迎振りは相当なものであった。話し合い以前の問題で、ブ
ラスカも、アーロンも、怪我をしなかっただけ拾い物である。判ってはいたが、実りの
ない結果であった。
 ただ一人、美しい顔立ちのアルベドの女性だけが、二人に対して丁重に接してくれた。
族長の妹と言っていたが、ヒトの言葉も堪能で、何より、ブラスカに対してかなり好意的
であった。ブラスカの予想通りに。

「アーロン・・・。」
「はい、ブラスカ様。」
 自分は、この若者を傷付けようとしている。
「私は、彼女と結婚しようと思っている。」
 アーロンの瞳が、一瞬、揺れる。
「・・・そう、ですか・・・お、おめでとうございます!」
 残酷だと、初めて運命を呪う。

 そして、ブラスカの運命は、予測通りの道を辿っていった。
 アルベドの女性との出会い
 結婚
 娘の誕生
 妻の死
 召喚士としての旅立ち

 だが、たった一つ、誤算とも言えるもの。

「ブラスカ様、俺をガードにしてください。」
「・・・アーロン、君は縁談が決まっていると聞いたよ。」
 返事は判っているのに、聞いてしまう自分が嫌だった。
「今日、お断りして、そのまま僧兵の退職も決めてきました。」
 揺ぎ無い、真っ直ぐなアーロンの瞳が、自分を見つめる。もう7年も経っているのに、
その瞳に籠められた純粋な心は変わりなかった。
「・・・決して、楽な思いはさせてあげられないよ?」
「覚悟の上です。」

 死なせたくない

「・・・ありがとう・・・・・。」
「俺が、勝手にお供したいだけです。こちらこそ、ありがとうございます。」

 誰でもいい

「・・・俺、ブラスカ様の力になれるでしょうか・・・?」
「君がいてくれるだけで、どれだけ助かることか知れないよ。」
 ブラスカの優しい微笑に、アーロンは思わず胸が高鳴り、顔が火照る。
 そんなアーロンを、ブラスカは思わず抱き寄せていた。
「・・・ブ、ブラスカ・・様?」
「本当に、どれだけ助けられているのだろうね・・・・・」
 その言葉に、アーロンは、少し振るえながらもブラスカの背に手を回す。
「・・・俺なんかが、お役に・・・立ちますか・・・?」
 ブラスカは、アーロンの黒髪に指を差し入れるように髪を梳く。
「・・・・・君がいなければ、今の私はないよ。」
「・・嬉しい、です・・・とても・・・。」
 アーロンの中で、何年も留めていた想いが一気に溢れるような気がした。
報われなくても、いい。ブラスカが自分を必要としてくれる限り、自分は命を掛けて
忠誠を誓おうと決意した。

腕の中で震えるアーロンが、ブラスカには愛しおしかった。
ブラスカこそ、何年も自ら認めようとしなかった想いを、今、認めてしまった。
認めれば、自分が、そしてアーロンが辛いだけだと判っていたはずだった。

誰か、アーロンの代わりに、彼の運命を受け入れる者を

『ザナルカンドから来た男』の話が、ブラスカの耳に届いたのは、それから二日後の
ことだった。

「私のガードになりませんか?」
「ブラスカ様!」
 男の名はジェクトといった。
1000年前のザナルカンドから来たと言って憚らないこの男は、恐らく自分の誘いを受け
るだろうと、ブラスカは予測した。と、いうよりこの男にとっては、僅かでも自分の
故郷に帰りつく可能性に賭けるしか無かったであろう。
 そして、もしこの男が、少なからずアーロンに好感を抱けば。
 ブラスカの思惑が、ゆっくりと動き出す。

 誰でもよかったのだ

 そのために 鬼でも魔物にでも なることなど

 真っ暗な闇に包まれて行く自分の感情など 恐ろしくはなかった







2001.10.03

これもSecret Heaven様に
強引に送りつけたモノ。
まだまだ、まーだーまーだー文がツタナイ。
ジェクアーの明るさとの対比が出したかった
・・・・という野望の元、撃沈。






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