理想論



 ゆるゆると、時間だけが流れて行く。

 ブラスカがアーロンの黒髪を手櫛で梳くと、指の間からさらさらと、まるで音を奏でるように、
流れ落ちる。
 深く眠っているのだろうか、アーロンは一定の寝息を立てたままであった。

『・・・酷いのだろうね、私は・・・』

 ブラスカの自嘲気味な思考は、留まる事は無かった。
 今日この日、召喚士となったブラスカに、アーロンがガードになりたいと志願した。
 今更のように、自分の運命を呪う。
 自分のインスピレーションはこの若者の未来を察知してしまった。そして、告げてしまった。
 変えられないと判ってはいても、自分が死神のようになるのは、苦しい。

 言わなければ、よかった。

『君は、選ばれてしまっているよ・・・。スピラに、ね。』

 この自分の言葉が、アーロンの運命を決定したようなものだったから。
 初めてアーロンに出逢ったのは、もう7年も前。


 その日のベベルにて、ひとつの事項が決定された。

 至上最年少の僧官の承認。

 年若い僧兵見習いたちの話題は、一気にその事に集中している。だが、アーロンだけは、そんな
話題には興味を抱かなかった。
 10歳で僧兵寮に入ってから7年。綺麗な顔立ちで視線を浴びてはいるのだが、あまりの生真面目
さ故、他の寮生達からは『眠り姫』と呼ばれていた。どうやら、観賞用としては一級品だがモー
ションかけても無反応、という処から来ているらしい。もちろん当の本人はその呼び名を知る由も
ないのだが。
 その『眠り姫』は、本日の訓練終了を僧兵長に報告する役目だった。

「失礼します。訓練終了のご報告に参りました。」
 凛とした声で入室の許可を乞う。
「入りたまえ。」
 入室したアーロンは、僧兵長に祈りの構えを取ると、もう一人の見慣れない姿がその目線の先に
止まった。
 水色にも等しい、長い銀髪をした、おそらく20歳位であろう美しい青年は、アーロンと目が合う
と軽く微笑んで会釈する。
「アーロン、ご苦労。今日の報告を。」
「は、はい」
 一瞬、その美貌に見とれるが、僧兵長の言葉に自分の責務を思い出し、報告に徹する。
「・・・そうか、では予定通り終了ということで宜しい。」
「はい、ありがとうございます。」
「後は明日だが・・・ああ、そうだアーロン。」
 僧兵長は思い出した様に青年を見遣る。
「その前に紹介しておこう、ブラスカ殿だ。本日より僧官となられた。」
 その言葉に、アーロンは再度、敬意を表して祈りの構えを取る。
「まだ齢22歳でいらっしゃるのだが、最年少で僧官となられた素晴らしい方だ。」
「・・・もうおやめ下さい。あまりに持ち上げられて、くすぐったくて仕方ありません。」
 クスクスとブラスカが笑う。
「いやいや・・・。で、この者はアーロンといって、今の訓練生の中では筆頭有望株ですよ。」
「滅相もございません。ブラスカ様、お初にお目に掛かります。」
 アーロンは一礼する。
「初めまして、アーロン。」

 コンコンコンコン・・・。

 ブラスカの言葉に被せるように、激しいノックの音が響き渡る。
「僧兵長!先程帰還しました遠征部隊より、シンに関する取り急ぎの報告が!!」
「何と。すぐ行く。」
 僧兵長は扉へ足を向けながら、二人に告げる。
「ブラスカ殿、お待たせするが申し訳ない。アーロンも、すぐ戻るので待っていたまえ。明日の
事だけ決定せねばならん。では!」
 慌しく出てゆく僧兵長の背をアーロンは見送った。

 暫く、二人には何の会話も成されなかったが、その内ブラスカが口を開いた。
「アーロンは、寮に入って長いのですか?」
「あっ、はい!7年お世話になっております。」
「そうですか。では、何れは僧兵部隊に入りたいのかい?」
「は、はい。寺院の役に立てるならば・・・。」
 ブラスカの質問ひとつひとつに、アーロンは緊張の色を隠せない。それは、僧官という立場在る
者との会話であると同時に、ブラスカ自信の魅力にも原因があった。
 その綺麗な唇から、不可思議な言葉が紡がれる。

「でも、君の道はベベルには続いていないようだね。」

「・・・・?・・ブラスカ様?」
 意表を突くブラスカの言葉に、アーロンは困惑する。ゆったりと微笑むその表情は、ドキリと
する程に妖しく、美しかった。
「ああ、すまない。驚かせてしまったね、気にしないでおくれ。」
 内心、ブラスカは楽しんでいるようにも見えた。
 そのまま扉に向かって歩き出す背中に、思わずアーロンは問うていた。
「・・あ、あの、ブラスカ様、どういう意味でしょうか?」
 ゆっくりと振り返ったブラスカの伸ばした腕が、アーロンの肩に置かれた。
 ブラスカの瞳に吸い込まれていくような感覚を覚える。

「君は、選ばれてしまっているよ・・・。スピラに、ね。」

 そのブラスカの掌は、ずっしりとした重みが感じられた。まるで、瞬間的にその肩に新しい運命
を乗せられたかのようだった。
 アーロンの背筋に冷たいものが走る。
 ブラスカの手が離れるさまが、まるでスローモーションのように感じた。

「じゃあ、アーロン。また。」

 そう告げて微笑むと、ブラスカの姿は扉の向こうに消えた。
「そう、また、ね・・・。」
 扉の外で、虚しそうに呟くブラスカを知る者はなかった。


「・・・ん・・・・・。」
 眠っているアーロンが寝返りを打つ。
「・・・ブ・・ラスカ・・様・・・?」
「ああ、起こしてしまったかい?」
 まだ半分眠りの中にいるアーロンが、無意識なのか、ブラスカの方に擦り寄ってくる。
 その肩を、軽くブラスカは抱き寄せた。安堵の笑みを浮かべると、そのままアーロンは再び眠り
に落ちてゆく。
「ふふ、眠り姫とはよく言ったものだね・・・。」
 自分は決定している未来の伏線にそって動いているにすぎず、決して招いたわけではない。
 だが、このまま進めば、アーロンの運命は決まっていた。

「・・・君を、死なせたく、ないんだ・・・。」

 もう聞いてはいないアーロンに、そっと囁く。
「・・何としても・・・」

 誰でもよかった。アーロンの代わりに、運命を受け止めるなら。

 

 大召喚士ブラスカと「二人のガード達」が、究極召喚によりシンを倒し、ナギ節を迎えるのは、
そう遠くない未来であった。









2004.03.08改正

これもまたSecret Heaven様に
送りつけ・・・ホント申し訳ない・・・。
確か『その術をー』辺りと同時に作ったモノ。
設定やこじつけがましいのは見逃して(汗)
私の初ブラアーにして既にブラックブラ様の
片鱗が見え隠れしている気が・・・(笑)
ちなみにブラ様の年齢が違うのは
公式発表前に勝手に決めたからです。
ツッコまないでネvv

一応、微微修正入ってマス。
・・・って改行くらいか。





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