その術を僕は知らない


「おや、アーロン、もう足は大丈夫なのかな?」
「はい、ブラスカ様、この通りです。ご迷惑をお掛けいたしました。」
 確認するように、左足の踵で地面を蹴るアーロンを、にこやかにブラスカは眺めていた。
 三日前の出来事だった。
 ジェクトが魔物を避け損なったはずみで、アーロンを巻き込みながら崖下へ落下し、
その上アーロンは左足を打撲してしまった。その傷の完治に今日まで費やすこととなったのだ。
 その三日の間、アーロンがジェクトに対して妙にギクシャクしているのだが、原因は、
言わずと知れた、あの時の「過剰なスキンシップ(?)」であった。生真面目なアーロンに
とっては「過剰すぎるスキンシップ」であったのは言うまでもない。
「じゃあアーロン、ジェクトが湖に散歩に行っているんだが、呼んできてくれないか?」
「ええっ?!」
 ブラスカの言葉に、アーロンは思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「・・・どうしたんだい・・・?」
 ブラスカが首を傾げる。
「あ、ああ、何でもありません!行ってきます!!」
 ブラスカに変な詮索をされまいと、返事も聞かずアーロンは踵を返して走っていった。

 宿からそう離れていない湖の畔で発見したジェクトは、大の字に寝転がり規則正しい寝息を
立てていた。
 何だかホッとしたアーロンは、詰まらないことで全力疾走してしまった、病み上がりの足を
叢に投げ出し、水辺を眺める。湖から渡って来る風が肩口を涼しげに通り抜けると、
その黒髪を揺らした。
アーロンは、自分の横で大口を開けたまま、鼾ともつかない寝息を立てる男の顔をそっと
覗き込んでみる。
「・・・気楽なヤツ・・・・・。」
 自分の膝を抱えるように座り直すと、思わず溜息を吐いていた。この男のせいで、何故自分が
こんなに考えねばならないのかと思うと、理不尽で堪らない。
「バカジェクト・・・」
「・・・バカとは、ちぃと失礼だよなぁ。」
 予想外の声に、アーロンは思わず座った体勢のまま後図去った。
 ジェクトが寝転がったまま、アーロンにむかって、ひらひらと片腕をあげて挨拶をする。
「お、お、起きていたのか!?卑怯な・・」
「ヒキョーって・・・何が?」
 実は、口走っているアーロンにもよく判っていなかった。
 ジェクトはゆっくりと上半身を起こし、両腕を伸ばしながら大欠伸をすると、
急に真面目な表情でアーロンを見遣る。
「もう、足、いいのか?」
 あまり見慣れないジェクトの真摯な表情に、アーロンは一瞬、言葉に詰まった。
「あ、ああ・・・、その・・・」
 迷惑をかけたな、その言葉がアーロンの喉まで出掛かっていた時、
「すまねぇな・・・・。」
 ジェクトの口から、自分が言う筈の台詞が漏れた。
「オレのせいで、余計なケガさせちまってよ・・・。」
 しおらしいジェクトの態度に、逆にアーロンが戸惑う。
「・・・いや、もう・・・気に、してない・・・。」
 こうとしか言いようのない状況に追い込まれた気がした。
「その上、なんつーか・・・、ちぃと、驚かしちまったみたいだしよ・・・・・」
「?・・・・・!!」
 ジェクトの言わんとしていることに気付くのに、そう時間はかからなかった。アーロンは、
急に顔が熱くなる気がして、思わずジェクトから顔を背ける。おそらく真っ赤になっているで
あろう自分の顔を見られたくなかった。
「・・・もしかして、よ、あーいうの、あんましなかった・・・とか?」
 ちょっと意地悪く、ジェクトがその顔を下から覗き込むように前屈みになる。
「・・・ったな・・・」
「あぁ?」
「悪かったな!!」
 こちらを向かないまま、アーロンが半ばヤケにも等しく大声で反撃してくる。
「確かに、あーいうのに慣れてない、オレは!!」
「・・・見りゃぁ、わかるけどよ・・・・・・」
 その言葉と同時に、振り返ったアーロンはギッとジェクトを睨みつけた。
「なら、ああいう悪フザケは二度とするな!!」
 顔を真っ赤にして激怒するアーロンを見詰めながら、ジェクトは頭をポリポリと掻く。
「あのよぉ・・・、フザケてるつもりは、ねぇぞ。」
「・・・・は?」
「オレぁマジだって。」
 ジェクトの意外に真剣な声が、アーロンを固まらせた。が、
「まあ、最初はチョット、からかってやろーかな、とか思ったけどよ・・・。」
すぐに、がっくりと肩を落とす。
「・・・やっぱりフザケてるんじゃないか・・・。」
 アーロンは思いっきり怪訝そうな目でジェクトを睨む。
「・・・だーかーらー、最初だけだって!」
 その言葉と同時に、アーロンの腕をグイッと掴むと、自分の方へ引き寄せる。バランスを
崩しかけたアーロンを抱き留めるように肩を抱え込んだ。アーロンは、座ったままジェクトに
後ろから抱き込まれるような体勢になっていたが、咄嗟にどう抵抗していいのか判らず、
為すが儘になってしまっている。
「・・・ん〜、なんて言やぁいいんだ・・・いいなりにしてみたいっつーか・・・。」
「・・なっ・・・!放せ、ナニ考えてるんだ!お前は・・・!!」
 急に身の危険を感じてジタバタと暴れ出すアーロンを、ジェクトはもう一度、力を込めて
抱き締める。
「おい、誤解すんなって!そーいう意味じゃなくて、イヤそーいう意味もあるんだけどよ・・・」
「どういう意味だ!!」
 益々暴れるアーロンを押さえ込むのは、さすがのジェクトにも至難の業だった。元々、
野性的なジェクトの本能は、言葉で表現するのを拒否し始める。
「ああっ、もぅ!メンドーなんだよ!!」
 アーロンの上半身を強引に自分に向かせると、有無を言わさずその唇を奪った。
「ジェク・・・」
 驚いて引き剥がそうともがくアーロンの両腕をしっかりと押さえ込むと、ジェクトはそのまま
深く唇を重ねて行く。絡め獲られた舌から与えられる感覚は、序々にアーロンの思考を浸食する。
逃れようとしていたその指は、いつの間にか縋る場を求めて、ジェクトの肩をきつく握り締めて
いた。
 どのくらいそうしていたのか、ジェクトが名残惜しそうに唇を離すと、ようやく開放された
アーロンは激しく何度も酸素を吸い込んだ。
そんなアーロンを、ジェクトは自分の肩にそっと抱き寄せた。意識がまだ朦朧としているのか、
ジェクトの行為に逆らうことなく身を預けている。
「・・・わりぃ・・・・・」
「・・・・・なら最初から、するな・・・」
 ようやく乱れた呼吸が整ったアーロンは、ジェクトの肩から額を離す。だが、火照った顔を
隠すように俯いたままで、決してジェクトを見ようとはしなかった。
 そんなアーロンを知ってか知らずか、ジェクトはもう一度アーロンの頭を引き寄せ、大きな掌で
黒髪を梳きながら囁くように呟いた。
「・・・だから、どう言っていいんだぁ?・・・・・。」
 ジェクトの少し掠れた声が、不思議に、アーロンの耳に心地よく響く。
「なんつーか、愛情?」
「・・・・・は?」
「・・・としか言いようがねぇんだよなぁ。」
 いきなりのジェクトの妙な告白に、アーロンは毒気を抜かれた。
「・・・・・はぁ?・・・」
 不振そうに顔を歪めるアーロンを、ちょっと照れくさそうに見つめながらジェクトは言葉を
続けた。
「・・・でもよ、よくわかんねぇ。」
 アーロンは頭を抱えたい衝動に駆られる。
「・・・なんだそれは?」
「自分から言い寄るなんてやったことねぇしよ、わっかんねぇ。」
 アーロンは、再びがっくりと肩を落とし、大きく溜息を吐いた。
「そんな意味不明な行動の上に、俺は被害を被ったのか・・・?」
 何度、この男に溜息を吐かされたか、考えるのも厭であった。
「被害はねえだろーよ、けっこー感じてたクセに。」
「だっ、誰が!!」
 ニヤニヤと含み笑いをするジェクトに、どんなに凄んでみせても無駄だとは判ってはいるが、
逆らわずにはいられないアーロンであった。
「いいじゃねーか、そぅ照れんなって。」
「照れてなんか・・うわっ」
 ジェクトは、アーロンの頭をグシャグシャに撫で回すと、もう一度強引に抱き締める。
「ま、気長に確かめようぜぇ、どうすりゃいいかを、よ!」
「・・・で、俺の人権は・・・」

 今日、何度目か判らない、ふかぁ〜い溜息を吐くと、
『誰か、この男を止める術を教えてくれ』
と、アーロンは思った。







2004.02.13改正

これもSecret Heaven様に
強引に送りつけたモノ。
やはりまだまだ文がツタナイ。
こう、なにか頭の中にあるんだけど
伝えられないもどかしさみたいのを
表現したかったんですが、玉砕(笑)

一応、微修正入ってマス。
ワカランよ、この程度の修正(笑)





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