眠る森[9]


「おはようございます」
 厳格な声に、ぱちりと目が覚めた。
「起きていらっしゃいますか」
 白虎と青龍の襖の向こうからの声だと気付く。
「・・・あぁ、起きたよ」
 まるで、襖の龍が喋っているようだなと、私は口内で笑みを漏らした。
 身体を起こすと、少年は未だ眠っている。やはり、規則正しい息遣いで胸を上下させていた。
 亜麻色の髪に、指を絡ませると、さらさら、と指の間を滑ってゆく。
 掴めないと思った。
 立ち上がり、昨夜脱いだ衣服に着替え直すと、龍虎の襖を手ずから開ける。向こう側に、昨夜と同じように案内人の若者が膝を付いて控えていた。
「朝餉のご用意をいたしております」
 そう言うと、すっと立ち上がり、私を一階へと促した。
 振り返り、眠った少年を見る。やはり、身動きひとつせずに、横たわっていた。
「あの子は、何時に起きるの」
「・・・・・・・・・」
 無言だった。答えられないということか。
「あの子は、こんなことをして平気なの」
「・・・・了解は得ておりますので」
「ふうん」
 では、遠慮をする必要はなかったのであろうか。
 小窓から見える海は、昨夜の真っ暗とは打って変わり、きらきらと陽を浴びて美しいまでに、光放つ。それは、私の眼を顰めさせるに充分であった。
 もう二度と行くことはないと思っていた。



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2005.07.21


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