Rebersible Man 33





 改札を潜ると、午後の日差しが目に染みた。この休日を作るために、無理をして仕事を切り詰めた
せいで寝不足である。
 駅を出た途端に、にやにやと笑みを浮かべる顔(実際にはいつもと変わらないのだろうが、見る側
の心理としてはそう見える)が目に飛び込んできて、幸鷹は不快な思いをした。
 以前にも乗せられたことのある大きな四駆車に促されると、早々に駅を後にする。車の中はお互
い終始無言で、それがまた幸鷹にとっては不快以外の何物でもない。いつもは頼みもしないのに、
ぺらぺらと喋るくせに、今日はやけに寡黙な運転手の横顔をちら、と見遣るが、その瞬間目が合っ
て更に気まずい思いをしたのだった。
「着いたよ」
 今日初めて聞くジェイドの声であった。
「・・・・・・・・・・・」
 幸鷹は促されるままに車を降り、ばたんとドアを閉める。そこにあるのは、二階建ての一軒家で
あった。コンドミニアムみたいなものだよ、と言いながら、玄関に向かうジェイドの背中を幸鷹は無言
で追った。意外に儲かっているのだな、と下世話なことを考えた自分を恥じると、扉を開けたジェイド
に続いて中で入る。
 意外と広い玄関を抜けた正面は、大きなダイニングキッチンであった。テーブルセットやテレビ、
チェストが申し訳程度に置かれ、思ったよりさっぱりとしている。ジェイドは軽く手招きすると、左手の
脇にある階段を上っていった。
 それに続いて二階に上ると、
「・・・・・・・・・はぁ・・・・・」
幸鷹は今日初めて口を開いた。言葉というよりも溜息に近いのだが、張っていた緊張感がどこかへ
薄れた瞬間であった。
「ちらかっててすまないね、適当にどけて座ってもらって構わない」
 処狭しと並べられたポートレートや写真の山にあっけに取られ、返答のない幸鷹を見ながらくす、
と微笑むとジェイドは一階へと降りて行く。それに気付かない程、幸鷹は驚いていたのだ。
 山や海、木々の風景が溢れる部屋を、ゆっくりと歩き回る。
 やはり、不思議なアングルで撮られたものばかりで、足元のポートレートを手に取ると、天地が掴
めないそれをぐるぐると回して、自分なりに、これと思う向きを図った。
「面白い?」
 その声にはっとなり、慌てて写真を元の位置に戻す。
 はい、とジェイドからコーヒーを手渡され、どうも、と幸鷹は気まずそうに受け取った。籐の椅子を
促され腰を下ろすと、ジェイド自身は写真をよけた床に座り込んだ。
「・・・・・すごい数ですね」
「仕事だからね」
 あっさりと返され、その先の会話に詰まる。
 いたたまれない感じがして、幸鷹は改めて散乱する写真を眺めた。ふと、机に散らばった束を流し
見るつもりが、内の一枚に目がとまる。というのも、それに覚えがあったからで。
「・・・・・・・・・!」
 幸鷹が手に取るよりも、
「ああ、これは」
コンマ数秒の差で先にジェイドがそれを掠めた。にやりと笑う顔が小憎らしくて、幸鷹は眉を吊り上
げジェイドに掌を差し出す。
「・・・・・・返してください」
「どうして?」
 別に君のものではないだろう?と小首を傾げる。
「第一、こんなに美しいものを手放すなどと、勿体無くはない?」
「からかわないでください!」
 ジェイドは陽に透かすようにその写真を窓に掲げた。太陽の光を背後から受けたその一枚は、被
写体の色を薄く染める。そこに刻まれた横顔が映す表情のように、面映い影を落とした。 
「咄嗟の作品にしては、我ながら、良い出来だと思うのだけど」
「自画自賛は結構です」
「何?もしかして、照れている?」
「・・・なっ・・・」
 その物言いが、逆に物事を恥じらいに彩る気がして、幸鷹は言葉に迷った。
「まぁいいさ、はい」
「・・・・・・・・・・え」
 あっさりと写真を手渡され、少し拍子抜けした気分である。
「いいのですか?」
「いらない?」
「いります!」
「ネガはあるから、また焼き増せばいいから」
「・・・・・・・・・・・・・」

 そういうことか。幸鷹の腹の内では舌打ちが鳴り響いていた。










2005.5.21 


えへ。
ちょっと間があいた(笑)







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