恋する海賊




 私なりの、想いのたけとやらは、ぶつけてみたはずであった。勿論、即、色よい返事が返ってく
るなどとは、思いもしなかったけれど。
 あの別当殿の性格から行けば、本当に私を疎んじれば、もう傍らに居ることさえも許さないに違
いあるまい。そういう意味では、少なからず希望とやらを持つのもよいか。
 しかし、彼、いや、神子殿を始め八葉(私を除く)は、京に平穏をもたらすという大いなる終着を
目指していた。もしかしたら、それまでの間は、と思い、唇を噛みながら耐えているのやもしれな
い。
「やれやれ」
 大の男が、情けないとも思う。人のことなど、どうでも良かったし、人にどう思われようが、どうで
も良かった。そんな気質だった私が、たった一人の人間に、ここまで左右されるなどと、誰が予想
だにしたのだろうか。
 ねぇ?

 ほんの少し前に、神子殿と話しをした事があった。
 私が、元気がないと言うので、どうしてそう思うかと尋ねてみたら、『なんとなく伝わる』のだそう
だ。のほほんとして見えて、意外に鋭いのかと思いきや。
「神子さまと八葉は、龍の宝珠を通じて、繋がっているのでございます」
 八葉の方々は、神子さまとの親睦が深まるほどに、その心の機微が伝わるのでございますわ。
 古い文献によりますと、と紫姫が清楚な声で付け足した訳だが。
「私は、あまり神子殿のことを感じないけれどねぇ」
 紫姫の眉間が少々狭くなったので、それ以上は言うまい。
 庭に降りると、神子殿も私の後に着いてくる。何か言いたげな眼をしていたので、それとなく尋
ねると、彼女曰く、『男の心はわからない』だそうだ。
 好きだと言いながら、何もしないのは何故か。
「なにもしないの?」
 かまをかけると、『何もということは・・・あ、えっと』と顔を赤らめる。可愛いねぇ。
 口をへの字に曲げながら、唸る少女は、正に『恋をしていた』。
「君との関係に皹を入れて、もしや失くすくらいならばと、我慢しているのではないの?」
 くすくすと微笑みながら、そう答えてみると、不服そうに溜息をつきながらも、『それもわかるん
ですけど・・・』と言葉を濁した。
 いつか、自分の世界に戻らなければいけない。そう思うと、自分からは踏み出せないのだと、
彼女は苦い笑みを浮かべた。
「女心も複雑だねぇ」
 そう言うと、彼女は
「そういう翡翠さんも、なんだか大変みたいですね」
と、上目遣いで私を仰いだ。
 おやおや、いつの間にそんな眼差しを覚えたのだろうね。ふと、誰かを思い起こさせた。
「ホント、恋するってたいへ――ん!!」
と、思ったのも束の間、いつもの神子殿だった。
 時に、神子殿。
「可憐な少女を惑わす男とは、誰のことなのかな?」
 顔を真っ赤に染めながら、そそくさと屋敷に戻る背中を見ると、とても『神の子』とは思えなかっ
た。
 さて、もうすぐ陽も落ちるし。今宵は、誰の元へお邪魔するとしようか。

 愛情と信頼は、どこが違うというのか。
 あまり恋愛に興味のないまま生きてきた私には、そこらへんの差というものが、どうにも掴み切
れない。
 女性と寝るのは、好きだった。暖かいし、柔らかい。
 私は好んで『商売』の女性を選んだ。彼女たちは、金品で私と寝るから。見返りに「私を愛して」
とは、決して言わない。現実味あふれた女たちが、私は好きだった。

 だが、理屈ではなく、誰かに心を奪われたとなると、どうにも上手く立ち回れない。

「それで、何故ここに来るのですか」
「つれないね、愛しの君」
 硯が飛んできた。
「危ないじゃないか、怪我でもしたら大変だろうに」
「いっそ、その方が大人しくて問題ない!」
 別当殿の館は、大変に趣味が宜しくて、私は好ましかった。調度品の揃えや、庭の趣。そのひと
となりが伺える。要は、私が別当殿の人柄が嫌いでないということか。
「ふふ」
「・・・・・何ですか、気味が悪い」
「いや」
本当に、君のことが好きなのだと思ってね。
「・・・・なっ」
 今度は筆が飛んできた。
「本当なのだけどねぇ」
「余計に始末が悪い!」
 そう言って、怒りを露にする姿すら、愛しさを感じる。
「ねえ、幸鷹殿」
「何ですか!」
「私が死んだら、寂しいかい?」
「今度は脅しですか!!」
 文机が飛んできそうな勢いで、怒鳴り返された。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
おや。
「ねえ、幸鷹殿」
「いい加減になさい!」
「つまりは、私が死ぬというのは」
君への脅迫の材料になりうる、ということ?
「・・・・・・・!」
 別当殿の言葉が止まった。くるりと私に背を向けると、文机の上に、どんどんと巻物やら何やら
を積み始めた。
「ねえ、幸鷹殿」
「五月蝿い!仕事の邪魔です!」
 その背中に、触れるか触れないかの距離で、そっと額を摺り寄せると、
「きちんと話してくれないと、私の都合のよいように取ってしまうよ?」
「勝手になさい!」
巻き込むように両腕に捕える。
「このまま、君と、朝の陽を拝みたいものだね」
「・・・お前に、その度胸がありますか」
 文机が傾き、その上の物々が、一気に転がり落ちる。私は、そっと腕の中の愛しいものを解放
した。
「怖いねぇ」
 だが、またすぐに白い袿で包み込んだ。
「試してみる価値は、ありそうだけれど」
「・・・良い根性です」
 がたん、と再び文机が揺れる。
 が、お構いなしに、腕の中の唇を奪った。
 じたばたと暴れる腕を押さえ込みながら、そっと舌で唇をなぞると、ややもして、動きが収まっ
た。漏れる吐息と、震える躯。着物の上からでも、どんどん熱を帯びてゆくのが伝わるほどに。
 そっと、袖の脇から指を差し入れると、直肌の熱だけでも眩暈を起こしそうであった。もっと、
もっと、その躯の深い場所を探りたいという好奇心が、首を擡げる。
 脇腹を滑る指先が、腰へと触れ。
「・・・・・・・・・・・・・・」

 その気にさせることなんて、簡単なのだけれど。

「・・・・・ひ、すい?」
 その場から離れると、
「これ以上は、本当に襲ってしまうからね」
「翡翠!」
飛んでくる巻物を交わしながら、庭へ躍り出た。

 あのまま、抱いてしまえばよかったのかもしれないけれど。
「・・・やれやれ」

 本当に、恋は厄介だねぇ。







2006.03.15

ぐるーみー様より43434のキリバンのリクを戴きました。
『今宵この時』風ラブラブえっちーの。
というリクなのですが・・・すみませ・・・。
えっちーのが、書けません!!(断言デター)
なのに、あんまりお待たせするのもなんだしと思い、
この状態でUPしました。
ほんと、申し訳ありませ・・・(脱兎)

■END■

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