翌日、幸鷹から差し入れがあった。
 索餅、酢のもの、肉の塩辛、蘇に瓜の粕漬け、果ては唐菓子ま
で、上流貴族の食卓が、そのまま運ばれてきた趣だった。
「食べなさい」
 勧められて箸を取ったが、回りはすでに歌えや踊れやの騒ぎに
なっている。
 私がつまんで口に入れるのを、幸鷹は前のめりになってじっと
見つめた。
「あのね、幸鷹。そう見られては食べにくいのだけど」
「おまえが物を食べるのを、初めてみました」
「そうかい?」
「食べるのですね」
「当たり前だろう」
「おいしいですか?」
「さすが貴族様、といったところかな」
「・・・言われると思いました」
 提子を持ち上げて、私の盃に酒を注いだ。
「どういう風の吹き回しだい?」
「昨日、あれから考えたのです」
 すっかり忘れていたので、まだ考えていたのかと感心した。
「私の欲しいものについて?」
「ええ。物欲がないならば、人に本来具わっている欲はどうだろう
と思ったのです。つまり、食欲性欲睡眠欲。この三つです」
「ぜひ性欲で試していただきたいねえ?」
「口に提子をつっこんでやりましょうか?」
「口からでよかったよ」
 いぶかしげな顔をした幸鷹に、答えを与えることは避けた。
 代わって酒をついでやると、幸鷹は端正な挙措で盃を受けた。
ふう、と息をついた。
「おまえは食への執着も薄いようですね」
「それを試すために、わざわざこれだけのものを運んできてくれた
のかい?」
「税金ではなく、私の懐から出したのでお気遣いなく」
「ますます気になるのだけれど」
「飲みなさい、翡翠」
「今度は眠くさせようというの?」
「ここまできて、引けるものではありません」
「私の欲しいものならば、もう伝えただろう?」
「なんです?」
「君」
「毒の持ち合わせがないことが、無念でなりません」
「本気なのに」
「心より得たいと望むものを、そのように冗談めかしていえるはず
がありません」
「恥ずかしがり屋なんだ」
「笑う場面ですか?」
「笑えないなら無理をしなくてもよいよ」
 幸鷹の酌で飲めるなど、滅多にあることではないから、いいの
だけどね。










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