金色の天と白銀の星



■ 金 ] ■



 藤原の館の一室で、数多くの召使達が『幸鷹』を正装に召し替え
ていた。側近のジェイドからまだ本調子ではないからむやみにお声
を掛けないように言い付かっていたため、ただ黙々と衣の擦れ合う
音だけが広い部屋に響いていた。
 鷹通を、幸鷹として皆の前に出した瞬間、主の全快に喜ぶ声こそ
あれ、疑う者は誰一人としていなかった。病のせいで微かに面変わ
りしたことを、また本人もそれを気にしているようだから触れない
ようにとも、ジェイドが予め皆に吹き込んでおいたこともあるのだが。
 召使に着替えを任せながら、鷹通は脳内をフル活動させていた。
ジェイドに言われたことは総て頭に叩き込んだつもりであったが、
沸きあがるのは不安ばかりである。指し当たって、彼を敬称付けで
呼ばないことが一番気がかりかもしれない。
 コンコン、と扉を叩く音がした。開いたと同時にジェイドの声が
入り込む。
「幸鷹殿のお召し替えは、済んだかい?」
「はい、只今お済みでございます」
「そう、幸鷹殿?」
 声を掛けられ、鷹通は自分のことだと再度意識しながらゆっくり
と振り返った。
「・・・・ジェイ・・ド・・」
「・・・・・・・・・・・」
 大きなフリルを襟や袖に施し薄ら萌黄に染められたシャツに、茶
色のジャケットを羽織る鷹通の姿を見て、一瞬ジェイドは言葉を失っ
た。だが、すぐにいつもの微笑みを浮かべる。
「あぁ・・・これで貴方はご健在かと、不安がっていた者達も安心す
 る・・・」
 ジェイドは召使達に重要な話があるから、と部屋から下がるよう
に命じた。総ての人間が部屋を去り、足音が遠ざかったことを確認
すると、ジェイドは再びふふ、と微笑んだ。
「正直、ここまで化けるとは思わなかったよ・・・君を疑う者は、恐らく
 誰もいない・・・」
「ジェイドさん・・・・しかし、本当に・・・」
「ジェイド、だよ・・・『幸鷹殿』」
 あ、と鷹通はつい口をついた癖を自分で制した。
「・・・すいません」
「それもだね、簡単に謝罪を口にしない」
「・・・・・・・・・・」
 立て続けに受けた指摘に、鷹通は俯き考えた。
「・・・本当に、私は大丈夫なのでしょうか・・・こんな大胆な事がもし
 ばれてしまったら・・・」
 恐らく、自分もジェイドもただでは済まないだろう。当主たる幸鷹
自身もきっと。
「だが、君に何かあれば・・・」
 その先の言葉を、ジェイドは敢えて口にしなかった。
「・・・・・・・・・・・・っ・・」
 頼久。
 ジェイドが言っていることが何処まで本当なのか、今の鷹通には
計りかねていた。だが、微かな可能性がある以上、自分のせいで
頼久を死なせることは出来ない。
「・・・さぁ、『幸鷹殿』?参りましょうか?」
「・・・・・・・・・・・・・」
 鷹通は無言で頷いた。









20050125





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