金色の天と白銀の星



■ 絢 T ■



 一頻り、囲まれた人々への挨拶が済んだ微かな隙の間だった。
「失礼・・・宜しいですか、天の総督?」
「はい」
 鷹通は掛けられた声に振り返り、その瞬間に言葉を失くした。
「・・・・・・・・・・・・・・」
 それは相手も同じようで、ぽかんとした顔で振り向いた『天の総
督』を眺めている。
 鷹通が絶句したのには、二つの理由があった。声を掛けた人物に
覚えがあった事。そして。
「・・・・・・・・・・・・・・ジェイ・・ド・・」
 ちら、と背後を見遣ると、ジェイドはいつもと変わらない表情で
相手を見据えていた。自分と同じ、その顔を。
「・・・あぁ、これはこれは・・・・どうしようか・・・・」
 相手も鷹通とジェイドを交互に見遣りながら、困ったような苦笑
いを洩らした。
 鷹通は思い出した。こちらへ来てからあまりにも色々なことが多く、
すっかり忘れてしまっていたが、港で出会った男がジェイドによく
似ていたのだ。まさかその男が、ここに。
「まずは、自己紹介だろうね・・・・私は橘友雅」
 港で見たのと同じ、優しげでゆったりとした微笑。どこか聞き覚
えのあるその名を、口内で何度か繰り返した。そして、何度目かの
リピートが、思わず口から漏れた。
「・・・・・橘・・・・たち・・・・星の・・・・!」
「港で、ご希望の船は見つかったのかな?」
 まさか、あの時の人物が星の都の総督だとは。鷹通は驚きを隠そう
と、必死で表情を取り繕う。
「・・・いえ、私は・・・・・」
「初めまして、提督」
 鷹通の言葉を遮るようにジェイドの声が響いた。
「幸鷹殿の側近を勤めます、ジェイドと申します」
「・・・そう、初めまして・・・・と、言うのも何だか不思議な気分だね・・・
 鏡でも見ているようだ」
「八都の女性総ての心を奪っておられる星の提督に、鏡などと言っ
 て頂けるとは身に余る光栄です」
 二人が会話をしている間に、鷹通は微かに俯き必死で頭を巡ら
せた。恐らくジェイドが自分が冷静になる時間を作ってくれたの
だろう。気付かれない程度に深呼吸をし、面を上げる。
「ジェイド、総督にあまり失礼を言うものではありません」
「・・・・・・・・・申し訳ありません、幸鷹殿」
 叱咤されている筈のジェイドが満足気に微笑むと、一歩その場か
ら引き、鷹通の背後についた。
「自己紹介もさせていただかず失礼しました、友雅殿・・・藤原幸
 鷹です、初めまして」
「おや、初対面ではないと思うのだが?」
「・・・それは、貴方の手管のお一つですか?」
「・・・・・・・・・言うね」
 友雅は、ははは、と声を立てて笑う。何とか誤魔化し切れたかと
思うが、この先のことを思うと、鷹通の内心は穏やかではなかった。
「気に入ったよ、君は面白い・・・幸鷹殿」
 そういって微笑む瞳の妖しさに、一瞬鷹通はどきりとする。こう
いう表情が、女性を虜にするのだろうかと、頭の隅を掠めていった。
 ジェイドと友雅はよく似てはいるが、雰囲気が全く違う。ジェイドは
『高貴な振る舞いが出来る』のであり、友雅は芯からの貴族で
あることが、並んでいてよく判った。自分も、幸鷹と並んでしまっ
たら歴然と差が生まれるのだろう。そんな事を考えながら、暫し当
たり障りのない談笑を交わしていると、友雅の背後に黒い仮面をつ
けた男が徐に近付いて来る。軽く一礼すると、手にしていた小さな
木箱を友雅に手渡した。それを受け取った当の友雅は、あまり楽し
そうでない表情をする。
「あぁ、幸鷹殿・・・これは私の部下の一人で・・・」
「アクラムと申します、お見知りおきを」
「・・・藤原幸鷹です、宜しく」
 仮面のせいなのか、表情が汲み取れないその男を、鷹通は心中で
快く思えなかった。何という確信があるわけではなかったのだが、
どこか本能が伝えていた。
「幸鷹殿、これを・・・」
 友雅が先程受け取った木箱を鷹通に差し出す。
「・・・・・?・・・・・」
 木箱の蓋を開くと、コイン型のペンダントヘッドが輝いていた。虎の
姿が刻まれており、金細工師である鷹通が見ればかなりの価値を
秘めたものだと一見して判る。
「互いの都の、和平の印にと・・・」
 アクラムが捕捉するように呟いた。
 和平の印。それでは、このペンダントヘッドはあの時のブローチ
の代品として用意されたものだと察すると、鷹通の心は締め付けら
れるようであった。あの一件が引金となって、こんな場所にいる自
分が奇妙だと感じる。
「本当はもっと違うものをお持ちする予定だったのだけど」
「些細なトラブルがありましてね・・・こんなものになってしまい
 まして、申し訳ございません」
 友雅の言葉と、それに継ぐアクラムの言葉が、鷹通の神経の深い
部分をぐっと抉った。
 貴族と自分の間には、大きな価値観の隔たりがある。彼らが気軽
に言うその『些細なトラブル』が原因で、自分はこの場に巻き込まれ、
頼久は生死の境を彷徨っている。こんなものと言ってのけるが、
このコインも一般の民から見れば相当立派なものであった。これ
を一枚手に入れるのに、一体どれ程の労働を強いられるのか。
「鎖も併せてお持ちしようと思ったのだけど・・・それは星の都に
 いらした時で宜しいかな?」
 仕方の無いことだ思いながらも、鷹通の中に言い表せない苛立ち
が湧き上がる。
「・・・・・・です」
「・・・・幸鷹殿?」
 俯き気味の鷹通が呟いた言葉がよく聞き取れず、友雅は首を傾げ
片耳を近付けた。
「・・・結構です、お返しします」
 今度ははっきりと聞き取れる声が友雅の耳に届いた。それと同時
に、木箱を突き返される。目の前の『幸鷹』の顔には、静かだがはっ
きりと怒りの色が見て取れた。
「私にこのようなものをお送りいただくのであれば、その分を民達
 に還元されてはいかがですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
 予想しなかった物言いに、友雅は言葉を失った。
「すみません、気分が悪いので今日は失礼致します」
 鷹通はくるりと踵を返し、一度も振り返らず真っ直ぐに出口まで
歩んで行く。そのまま躊躇いもなしにバンと扉を開き、部屋を去った。
ジェイドは軽く一礼すると、そのまま『幸鷹』の後を追い扉へと早足
に向かう。
 ギャラリーが好奇の眼を向ける中、一部始終をぽかんと見送った
友雅は、
「・・・・・・・・堪らないな・・・・・」
そのまま喉奥から込み上げてくる笑いを抑えきれず、くく、と声が
漏れた。









20050127





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友サマ衣装:やっぱり全プレてれか(笑)

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