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■ 金 17 ■ 星の総督府に入ってから半月。漸くこの館にも慣れ、環境にも馴染み始めた。 『幸鷹』は天の総督の座を正式に後任に引き渡すと、立場的には星の都で総督補佐という地位に着くこととなった。実際、大して行うこともないのだが、形上『元天の総督』を無冠にすることは出来ない。本物の幸鷹であれば、そんなお飾りの地位に激怒しそうだが、政治向きの事にはまだまだ疎い鷹通に取ってはありがたかった。 鷹通がばたばたとする中、ジェイドは星の都に滞在しながら、週の半分は天の都と星の都を行き来していた。頼久をこちらへ連れて来る手筈もあるからと言ってはいるが、それ以外にも何かありそうである。だが、鷹通は敢えて訪ねないようにした。 そうして、一ヶ月程過ぎたある日、ジェイドが『幸鷹』の部屋を訪ねた。 「幸鷹さん、紅茶はこちらで宜しいですか?」 「ありがとう、そちらに置いてください」 世話係を仰せつかったという詩紋は、まだ十五歳とのことだった。壌の都の貴族出身ということもあって、あどけないが立ち振る舞いは人前に出しても何の問題もない・・・とは、泰明の言葉である。心優しい少年で、よく周囲を気遣ってくれる。お菓子を作るのが得意だからと、彼の入れるお茶にはいつも何かしら添えられており、それがまた本当に美味であった。鷹通が誉めると、照れながら 「よかった、今はお茶を入れるくらいしか出来ないけど・・・ いつかもっとお役に立てればと思います」 と、嬉しそうに微笑むのだ。 詩紋に出された紅茶を口に含みながら、周囲から人の気配が消えた事を確認すると、 「頼久のことは、この男に任せたから」 と、ジェイドは鷹通に小さな紙片を手渡した。そこには、星の都の街裏住所と、聞いた事の無い診療所の名が記されていた。 「胡散臭い男だが、腕は確かだからね」 「・・・・・ありがとうございます」 「時間が出来たら、一度訪ねるといい」 「・・・・・はい」 鷹通はそのメモを握り締めた。一刻も早く頼久の様子を確かめたいが、タイミングを間違えれば逆に頼久の身が危険である。 鷹通が思いを巡らせていると、ジェイドが思い立ったように問うた。 「ところで、星の総督とは、どう?」 「はい、とても良くして頂いています」 「・・・・・・・・そう、上手いんだ?」 「・・・・・は?」 言葉の意味が理解出来ず、鷹通は怪訝な顔をする。 「したんでしょ?」 「・・・・・・あの・・・」 「だから、セックス」 「・・・・・してません!!!」 あまりに露骨な物言いに、思わず大きな声を出してしまった。自分の声に驚きながら、鷹通は誰か駆け込んでこないかと入口を伺った。誰も来ないことに安堵すると、 「どうしてそう・・・露骨な言い方をするんですか・・・」 小声で呟いた。 「何?言い方を変えても、要は同じ事ではないの?」 「・・・・・・・それは、そうですが・・・でも・・・・」 ジェイドが、からかうためにわざとこういう言い方をするということが、最近になってようやく判ってきたが、なかなか慣れるとまではいかなかった。そういう意味で、幸鷹はよくこのジェイドをあしらってきたものだと鷹通は感心する。 「でも意外だね、本当に何にもしてないの?」 「本当にしてません!」 友雅は、時間があれば訪ねて来ては様子を気遣ってくれたが、それだけであった。別にそういう駆け引きを持ち掛けられたこともない。 そう、とジェイドは不思議そうに呟いた。 鷹通は恐らく気付いてないが、ジェイドはわざと友雅を煽るような行動を取っていた。何気に肩を引き寄せてみたり、友雅がいることに気付かないふりをして、わざと「幸鷹」と名を呼び捨てたり、頼久の事でと言いながら深夜に部屋を訪れたりもした。それでも傍観を決め込んでいるのは、鷹通へ全く興味を持っていないのか。それとも。 「思ったより、骨のない男だったか・・・・」 友雅に対する腹癒せなのだが、ジェイド自身も今となってどうでも良いかとも思う。 「明日、天の都へ戻るよ」 「・・・・ジェイド・・・さん」 「私の役目は終わったからね」 何の戸惑いもなく、ジェイドはそう言い切る。鷹通から見れば、とても冷たいようにも見えるその行動が、ジェイドに取っては真実なのだ。 彼の大切なものは、『ここ』にはなかった。 20050206 |
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