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■ 銀 [ ■



「ねぇ、泰明?」
「なんだ」
「気になる相手に、恋人がいるかもしれない場合・・・君ならどう
 する?」
「・・・・・・・・・・・何故、私に聞く」
 そういう事はお前の方が得意分野だろう、と泰明は束ねられた封書の中を一つずつ確認している。
「幸鷹のことか」
「判ってるんじゃないか」
 ここにサインを、と促されるまま友雅は中身も確認せずにペンを走らせた。
「自分の事を、何故私に聞くのかということだ」
「無粋だねぇ・・・こういう話題は、それなりに楽しいものだよ?」
「お前だけがな」
 淡々と答える泰明に苦笑しながら、友雅は再び出された書類にサインを続けた。
 幸鷹と話せば話す程、友雅の中の好奇心が彼に向かって首を擡げる。貴族らしからぬ贅沢嫌いも面白いが、呆れるくらいに素直なところもまた面白い。おかしな言い方だが、貴族の垢に塗れたところが見えなかった。

 以前、友雅が書類の内容を確認せずにサインしているのを見て、
「内容を確かめないと、後で困りませんか?」
と彼は問う。
「泰明は信頼に足る人間だからね」
と答えると、
「信頼は勿論必要ですが、自分で内容を知らないというのは・・・
 恐ろしくありませんか?」
と、真顔で切り返された。
 考えた事などなかった。あまりに雑務が多すぎて、その一つ一つを考える余裕など無かったのかもしれない。
 だが、
「全部を知らなければ、良い方向に動かす事もできないのではない
 ですか?」
その言葉に、自分が面倒を避けて来たという事実を突きつけられる。それが苦痛ではあるが、あまりに新鮮であった。
 計算なのか素なのか、まだ図りきれないが、そこがまた友雅の心を擽って仕方ない。

「ところで、これは何の書類?」
「来月開かれる、総督補佐の見世物の宴だ」
 歯に衣着せぬ泰明の言葉に、友雅は眉を顰めながら笑いを零す。
「・・・・・・・・・・・・・・ここの予算を半分に削っておくれ」
「御意」
 また怒られては面倒だからね、と友雅は小さく呟いた。

 故に、幸鷹とジェイドの仲について、方々から入る噂に友雅は惑わされっぱなしである。
 どうもあの二人がただの主と側近でないことは事実なようで、わざわざ馬に蹴られるような真似をするのはごめんだった。当の幸鷹は全くそのような気配を見せないのだが、ジェイドは明らかに自分に牽制を投げている。
「あの側近は、食わせ者だ」
 友雅の考えを読んだように、泰明が呟いた。
「そう思うかい?」
「お前の乳母が言っていた」
「乳母?」
 どこでどう話が繋がっているのか、突然出た名前に友雅は首を傾げた。
「四日前、お前の乳母だった女が訪ねて来ただろう」
「・・・・確かに来たね」
「その時に、あの男を見て言っていたのだ」
「・・・・・何を?」
「あの男は、・・・」

 友雅は手にしていたペンを机に放り投げた。







20050209



金色の天と白銀の星

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