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■ 銀 \ ■



 コンコン。
「入りたまえ」
 扉のノックに、友雅は気だるそうに呟いた。音もなく開いた扉の向こうから、
「夜分に失礼」
ジェイドが姿を現した。
「・・・なんだ、君か」
 あからさまに残念という声で出迎える。
「幸鷹じゃなくて残念でしたか?」
「・・・・そうだね、だが・・・」
「あれは、そんなことをする人間でもありませんね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 執務室は一瞬静寂に包まれる。だが、夕食の時間が近いせいか、かちゃかちゃと食器の音や、料理を運ぶワゴンの音がその間に割って入った。友雅は椅子から立ち上がると、わざと背を向け後ろの書棚に手を伸ばす。
「・・・それで、一体どのようなご用件かな?」
「明日、こちらを発つので、ご報告までに」
 不機嫌な顔の友雅に対し、ジェイドは微笑みを絶やさない。それが妙に癇に障って、普段の友雅らしからぬ物言いで迎え撃った。
「本当にいいのかい、彼一人を残して?」
「真実を言えば、よいなどどは欠片も思いませんよ」
「・・・・では、何故?」
「仕方ないことではありませんか、私は貴方と違って地位も権力も
 ない、ただの部下だ・・・幸鷹の望む事には逆らえない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 逆らえない。なのに、主を幸鷹と呼び捨てるか。友雅は心中で小さく呟く。書棚の扉をぴしゃりと閉じ、ゆっくりジェイドの方へ向き直った。
「・・・・では、せいぜい大切に扱わせていただくよ・・・君の代わりに」
「えぇ、お困りの事があれば何なりとお尋ねください・・・総督?」
 そう微笑むと、では失礼します、とジェイドは執務室を後にした。ふぅ、と溜息を吐きながら、再び椅子にどかっと腰を下ろす。
 明らかにあの男が幸鷹に固執しているのが判る。だが、それならば何故ここから去るのかが友雅にはどうしても解せなかった。先程、泰明から聞いた境遇から言っても、星の都に残り友雅の寝首をかく隙を伺うのではと懸念していた矢先の、思わぬ行動だ。
 天の総督の側近と言いながらも、この男からは何というのか、堅気の色が全くない。彼ならば、何が何でも自分の目的に向かうように強いるのではないのか。
「・・・まぁ、遠慮の必要はないという事かな・・・」
 難しく考えるのは性分ではない。人生は愉しく送るのが良いのだから。
 それが『逃げ』であると突きつけられる前に塞いでしまおうか、と友雅は苦笑いした。







20050210



金色の天と白銀の星

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