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■ 銀 ] ■



「幸鷹さん?!」
 ぐったりとした鷹通をバスタオルに包み、抱きかかえている友雅を見た瞬間に詩紋は声を上げた。走り寄ってみると、友雅自身もずぶ濡れである。
「どうしたんですか?!」
「野暮なことは尋ねるものじゃないよ、詩紋?」
「・・・野暮って・・・・・あっ・・・」
 友雅の妖しい微笑みに、詩紋は顔を赤らめ俯く。詩紋も貴族の端くれであった以上、幸鷹が星の都へやって来た意味が、和平だけでないことは薄々感じてはいた。
「後で、私の部屋に水を持ってきてくれないか?」
「え・・・・・は、はい」
 何故だか、本人の部屋に帰すのが忍びないと思った友雅は、敢えて自分の部屋にそのまま向かった。
 決して軽いとは言えない男の身体を抱えたまま、試行錯誤しながらどうにか扉を開けると、まずはソファに『幸鷹』の身を横たえる。背中や足に残る水分を拭き取ると、自分のクロゼットから貫頭衣風の部屋着を取り出し、明らかにサイズが合わないがこれが一番ましだと思い、冷え切る前の躯を包んだ。髪から眠る顔に滴る水滴を、タオルで丁寧に拭き取る。
「・・・・・・・・ん・・・・・・」
 小さく漏れる吐息に目が覚めたのかと思い、じっと顔を眺めたがそのまま、すぅ、と息が落ち着いて行く。やれやれ、と小さく呟くと、自分も濡れた着衣を脱ぎ捨て、クロゼットを漁った。
 友雅は、困っていた。
 まさかあれだけ炊き付けておいて、実は何もしていない(恐らく)とはどういうことなのか。ジェイドに文句を言いたくて仕方なかった。『幸鷹』があまりに拒み暴れるものだから、そんなに彼への操を守りたいのかと苛々しながら、
「・・・・・結構、酷い事をしたのでは・・・・・」
思わず語尾は声が漏れる。
 夜着に袖を通すと、ソファに寝かせたままの『幸鷹』を再び抱え上げ、自分の寝台へ運ぶ。丁度寝かせた処で、扉をノックする音が聞こえた。
「入りたまえ」
 眠る人物に気遣ってか、いつもより控えめなトーンで友雅は答えた。
 がちゃりと開いた扉の向こうには、戸惑った顔色のまま、トレイに載せた水差しを持った詩紋が立っていた。
「あの・・・お持ちしました・・・」
「ありがとう、そこのサイドテーブルに」
 指定されたのは寝台のすぐ脇のテーブルである。真横で眠っている『幸鷹』をあまりじろじろ見ないように、詩紋は水差しを置いた。
「湯当たりしたみたいだね」
「そ、そうですか・・・」
 しっとりと濡れた髪で微笑む友雅に、詩紋は答えはどう返事をして良いものか困惑する。友雅の眼にもそれがありありと伺えるが、然程気にならなかった。
「ねぇ、詩紋・・・・」
「は、はい!」
「君は、星の都に来てどれくらい?」
 脈絡のない話に、詩紋は大きな眼を更に丸くさせた。
「あの・・・もうすぐ一年です」
「そう」
 呟きながら、『幸鷹』の眠る寝台脇に友雅は腰を下ろす。
「どう、星の都は?」
「・・・・どう、って・・・・その、良い都だと思います」
「・・・そう」
 気まずい雰囲気を感じ取った詩紋は、軽く頭を下げると部屋を後にした。

 良い都。確かにそう思う。自分のような総督に治められ、よく均衡を保っているとも思う。
 そう、自分のような者に。
 友雅は眠る『幸鷹』の髪にそっと手を伸ばした。まだ水気の抜けない髪。指で辿ると、きゅ、と小さな音が響く。
「・・・・・・う・・・・・ん・・・・・・」
 眠る吐息に混じる呻き声が自分を責めているようで、目を背けて来たものを突きつけられるような感じがした。







20050213



金色の天と白銀の星

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