金色の天と白銀の星



■ 金 18 ■



 友雅が視察で朝から出かけると聞き、鷹通はそっと詩紋に耳打ちをした。
「行きたいところが、あるのです」
 館の人間に知られないようにという要望から、詩紋は辻馬車を拾い、それを館の裏から少し離れた場所へ待たせた。
「幸鷹さん、こっちです」
「ありがとう、詩紋」
 二人は馬車に乗り込むと、星の都の繁華街から少し奥まった裏街道へと向かう。
「・・・・あの、幸鷹さん・・・どこへ行くんですか?」
「・・・・・・・すいません、詩紋・・・聞かないでくださいますか?」
「・・・あ、はい・・・・出すぎた事を言ってすいません」
「いいえ、君が悪いことは何もありません・・・ただ、約束をして
 いただきたいのです」
「約束・・・?」
「このことは、決して誰にも話さないでください・・・・人の命に
 関わることなのです」
「・・・・・・・・・わかりました」
 そう言うと、詩紋はその後ずっと口を引き結んだ。

 幸鷹殿に伝えておくれ。
 星の総督を、よろしく・・・とね。

 詩紋は、その言葉をそのまま伝えてよいものか、未だ迷っていた。まるでジェイドの方が総督と懇意にしている者のような言い方。言い間違いなのか、わざとそう言ったのか、真意を測りかねていた。

 鷹通は馬車の窓から外を眺める。自分の見慣れた筈の風景がやって来ては流れてゆく。同じはずなのに、まるで違って見える光景。

 あの日から、友雅は毎日のように鷹通を求めた。
 最初の時のように酷い扱いこそされないが、それでも鷹通にとって慣れる行為ではなかった。おまけに呼ばれる名は『幸鷹』であって、自分ではない。そう思った途端、恥ずかしくなった。
 まるで、幸鷹に嫉妬しているみたいだ、と。

 そんなことを考えていると、馬車の速度が落ち始めた。鞭の音がして、動きが止まると、着きましたよという声が外から聞こえる。
 裏街の一角に下ろされた二人は、鷹通の持っているメモを頼りに、看板も表札もない古びたアパートの扉を叩いた。
「誰だ?」
 扉の中から出てきたのは、頭にバンダナを巻いた赤毛の少年だった。詩紋と同じくらいの年頃だろうか。
「あの、ここに・・・・頼久という者がお世話になっていませんか?」
「・・・・・・・・・あんた、何モンだ?」
 訝しむ視線を向ける少年に、
「私は、ジェイドから・・・ここに来れば頼久に会わせてもらえると
 聞いたのです」
メモに書いてある通りの事を伝えた。
「あんた、『幸鷹』か?」
「・・・はい」
「そっか、俺はイノリ」
 そう言いながら、イノリは建物の中に手招きした。
 入った途端に漂う薬品の香りに、鷹通も詩紋も室内をきょろきょろと見回した。
「役人にはここのコトは言うなよ、モグリなんだからな」
 アパートを丸々医療施設として利用しているとイノリは言った。
「ここだ」
 一番奥の部屋に入ると、前に一度見た時と同じ、物々しい医療器具に囲まれた頼久の横たわる姿があった。だが、以前と一つ違うことがあった。
「・・・・・た、かみ・・・」
 首をこちらへ向け、小さく唇が動いたのだ。
「頼久・・・!!」
 思わず鷹通はすぐ傍まで走り寄る。手に取った頼久の指先は、以前よりも確実に温かく、顔色も大分よくなっていた。鷹通が微笑むと、頼久も微笑み返す。その表情に、鷹通は芯から胸を撫で下ろした。
「一昨日、意識が戻ったんだ、まだ無理はできねぇけどな」
「・・・そう、ですか・・・よかった・・・・先生にお礼を言わなければ
 いけませんね」
「いいよ、礼なんか・・・貰うもんもらってあんだし」
「・・・・でも、きちんとお礼を言わせてもらいたいのです」
「だから、そのオレがいいっていってんじゃん」
「・・・・・・え?」
 鷹通は失礼かと思いながら、まじまじとイノリを眺めた。やはりどう見ても、十五、六くらいの少年である。
「もしかしてさ、アンタ・・・オレのことパシリかなんかだと思ってた
 ワケ?」
 そうですとは言えず、いやその、と言葉を濁した。
「まぁしゃあねーけどな、この年じゃ医師免許も取れねぇし・・・
 だからモグリなんだけどな」
 ジェイドが少し胡散臭いと言ったのは、こういうことかと鷹通は思った。
「ま、いいや、積もる話もあるんだろーし、オレ達ぁ出てるか」
「・・・・・・・えっ、あ、あ・・・・・」
 ただぽかんと見守っていただけの詩紋の袖を引っ張りながら、イノリは部屋の外へ出て行こうとする。
「・・・あ!三十分だけな!それ以上はそいつが無理だから」
「幸鷹さん、あの・・・外で待ってます!」
 イノリ引っ張られ、詩紋も扉の外へと姿を消した。









20050222





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