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■ 朱 T ■ イノリの事務室だと思われる部屋まで引っ張られて来ると、まぁ適当に座ってろと言われ、詩紋はその辺のあいた椅子に腰掛けた。事務机の上には山のような書類や薬品が置かれ、そこに埋まるようにイノリが座ると、姿が半分くらいしか見えない。 ばさばさと紙と格闘しているイノリに、詩紋は恐る恐る声をかけてみる。 「・・・・ねぇ、君・・・・えっと・・イノリ・・君?」 「何だよ、えっと・・・・」 「僕は詩紋」 「で、詩紋、何だ?」 「あの人・・・あのケガをしてた人・・・一体・・・」 「そりゃ言えねぇ」 書類の向こうから即答される。 「なんせ、守秘義務ってのがあるからな」 「・・・・・・・・そう」 「悪ぃな、オレも医者だからよ、一応」 「ううん、ごめんね」 詩紋は本当に『幸鷹』を慕っていた。前持った話ではかなり厳格な人物だと聞いていたが、実際の彼は優しく、無下に扱われることもない。優しい物腰で、自分にはない広い視野を持っているのもまた魅力だった。 「僕、幸鷹さんのために、何か出来るのかな・・・」 「なに言ってんだよ」 詩紋の呟きに、イノリはまたも即答した。 「充分信頼されてるじゃねぇか」 「・・・・え?」 「こんな胡散臭いトコ、信用できねぇヤツ連れてこねぇだろ?」 イノリは白い歯を見せて、にっと笑った。 「・・・・・・・・胡散臭いって・・・自分で言うのもどうかなぁ」 そう言いながら、詩紋は嬉しさを隠せずに微笑みを洩らす。 「うっせぇ!」 口汚く言いながらも、イノリの口端は上がったままであった。 「・・・ありがとう、イノリ君」 「よせやい、ガラじゃねぇ」 20050225 |
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