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■ 絢 X ■ 夕方過ぎに館に帰ると、鷹通はそのまま部屋には戻らなかった。 微かに暮れ始めた夕陽を見ながら、中庭の芝生に座り、これからの事をずっと考えていた。 頼久のこと。 まだまともに口もきけない状態ではあったが、こちらの言う事は理解出来るようだった。どこまで話してよいものか、散々迷い、自分が幸鷹の身代わりになっていることは伏せた。 まだ自分達の容疑は晴らされていない。だが、親切な方が無実を信じて匿ってくれているのだと。その人には、頼久が元気になったら御礼を言いに行こう、と。 『幸鷹』のこと。 いつまで、自分は傀儡でいなくてはいけないのか。自ら蒔いた種とはいえ、この状況が苦痛で仕方なかった。 そして、友雅のこと。 それは自分が、『幸鷹』を演じている以上、どこまでも付いて回る。心苦しい。それは、友雅を騙しているからだと思った。 さすがに辺りが暗くて目が利かなくなってきたので、部屋まで戻ることにした。 「遅かったね」 薄暗い部屋に入るなり聴こえた声に、鷹通は息を吸い込む。 灯りを燈すと、寝台に座りながら片膝を抱える友雅の姿があった。 「友雅殿・・・驚かせないでください」 「そちらこそ、驚かせないでくれないかな?」 「?どういう事ですか?」 「昼間、私に隠れて、どこに行ってたの?」 「・・・・えっ」 思わず鷹通は声を洩らした。 「どうして・・・」 友雅の表情は変わらない。 「詩紋は、いい子だね・・・嘘がつけない」 「・・・・・・・・・・・!」 「あぁ、詩紋を疑ってはいけないよ・・・彼は何にも喋らなかったの だからね」 そう言いながら、友雅は立ち上がり鷹通のすぐ傍までゆっくりと歩いてくる。 「ただね、正直すぎて・・・隠そうと行動することが、余計裏目に出て しまう子だ」 「・・・・監視していたのですか、詩紋を」 「恐い顔だね」 ふふ、と微笑む友雅の顔が大輪の花のようであった。今の鷹通に取っては、毒花にも見紛う程に。 「どこに、行ってたの?」 「・・・・・・・・・・・」 凍りついたような微笑に、鷹通は答えることが出来なかった。万一、見つかった時のために、いろいろ考えていた言い訳が、一気に霧散してしまった。 「何も、言わない・・・言えない?」 「・・・・・・・・・・・」 いっそ、総てを友雅に明かしてしまおうか、鷹通は一瞬そう考えた。だが、それは様々な秘事を一気に危険にさらすことになる。幸鷹の名誉も、そして頼久の命も。 だが、一番心を過ったのは。 『幸鷹』ではない、自分。 天の総督でなかった自分に、友雅にとってどれ程の価値があるのか。 知った彼の言葉が恐ろしい。 それに、気付いてしまった。 20050225 |
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