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■ 朱 U ■ 「詩紋」 「・・・・・・ゆき、たか・・さん?」 眠たそうに詩紋は瞼を擦った。 「朝早くすみません」 どうしても、君に頼みたいのです。そう言った鷹通の顔が真摯で、詩紋は眠気を飛ばす。 「・・・どう、されたんですか?」 まだ空は白んでもおらず、朝というよりも夜明け前である。 必死で囚われた幸鷹を弁護し、何とか今の部屋に拘留することで押し通した鷹通は、まず最初にジェイドへ連絡を取ることを考えた。だが、真っ当に天の都に連絡を取る訳には行かない。 間違いなく、鷹通の態度は友雅達に懸念を抱かせた。この上で、余計な行動を漏らすことは出来なかった。 そんな鷹通が思い出したのは、 「イノリ君のところへ、行ってもらいたいのです」 「・・・・イノリ君の?」 どこかでジェイドとイノリが繋がっているという可能性であった。 「これを、イノリ君に渡して欲しいのです」 したためた手紙を差し出すと、詩紋は多くを聞かずに、はい、と頷いた。 「本当にすみません、巻き込んでしまって」 「いいんです、僕が幸鷹さんのために何か出来るなら、喜んで」 綿菓子のように微笑むと、詩紋は寝台から跳ね起きた。早々に衣服を見繕うと、部屋からそっと抜け出す。 こんな早朝では辻馬車も通ってはいないだろう、そう思うと、うん、と心を決め一直線に裏口を駆け抜けた。 詩紋は早々に息切れしながら、ふらふらと走る。さすがに馬車で走った時間から言って、徒歩で向かうのは少々厳しい場所であった。 この時間では人一人通っていないだろうが、祈るような気持ちで詩紋が周囲を見回すと、 「・・・・・あっ・・・」 遠く向こうからゆっくりとこちらへ歩んでくる馬が見えた。思わずその真前に飛び出して両手を思い切り振る。 「止まって!!お願いします!!」 「・・・ん?な、なんだ?!」 止まれない速度ではないが、馬上の主は慌てて手綱を引き、馬首を向き変えた。 「なんだお前、何か用か?」 両袖を切り落とした衣服を纏った男は、快活そうな見た目のままに大きな声で言いながら、馬主は馬から降りる。 「お願いします、この先まで乗せていってくれませんか?」 「この先?どこまでだ」 詩紋の説明を聞くと、男はなんだよ、と呟いた。 「イノリんとこじゃねぇか!」 「イノリ君を知ってるんですか?!」 「知ってるも何も、今から行くトコだ」 乗ってけよ、と男の笑顔につられて、詩紋も大きく微笑んだ。 「ありがとうございます!」 先に馬に跨った男に引っ張られ、詩紋はその背中にしがみ付く。 「オレは天真、お前の名前は?」 「詩紋です」 「訳アリみたいだな?」 「・・・・・・・・・・・」 天真の問いに、詩紋は答えることが出来なかった。自分が幸鷹から任されたことは、軽視できないものであろう。安易に口にしてはいけないという思いがそうさせたのだ。 「ま、いいさ・・・しっかり捕まってろ!」 「・・・は、はい!」 天真が馬の腹を軽く蹴ると、嘶きと共に馬の足取りが大きくなった。 「イノリ君!!イノリ君!!!」 必死で詩紋は扉を叩き、主の名を呼ぶ。中から、どたんばたんと足音がして、がちゃりと扉が開いた。 「・・・・んだよ・・・詩紋じゃねぇかぁ・・・」 「よぅ、イノリ!」 「・・・天真ぁ?なんでお前まで・・・ふわぁ・・」 寝惚け眼のイノリが、扉の向こうで大欠伸した。 「ごめんね」 詩紋は、息を切らしながらそう言うと、懐から封書を取り出し、差し出す。 「・・・なんだ、これ」 「幸鷹さんから、どうしても急ぎで読んで欲しいって」 詩紋の様子から察したのか、イノリはその場で封書を破り、中を舐めるように目で追った。 「・・・・・ジェイドの・・・居場所?」 「あの、イノリ君・・・何か知っている?」 「・・・あいつなら、今朝ここに来たぜ」 「えぇっ!!今朝?!」 「あぁ、薬だけ取ってすぐに行っちまったけどな」 「・・・・・・・・・・」 詩紋はすぐに踵を返すと、今辿ってきた道を引き返した。 「お、おい!詩紋!!」 イノリもつられてその後を追う。 「天真、中にケガ人がいるんだ!!悪ぃけど面倒見といてくれ!!」 「お、おいイノリ!!」 どんどん姿が小さくなる二つの背中を、天真はぽかんと見送ると、 「・・・・・ちぇ、仕方ねぇなぁ・・・」 天真は開け放たれた扉を潜り、中からばたんと戸を閉じた。 20050319 |
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