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■ 銀 T ■



「友雅、もうすぐ船が出る」
 泰明に声を掛けられると、友雅は面倒臭そうに前髪をかき上げ、溜息
をついた。  潮風が一瞬強く吹き、頭からすっぽりと被っていたマントが外れ、
緩い巻き髪が風に靡く。海はことのほか穏やかで、港の船がゆらゆら
と揺れる様を何気に眺めた。
「・・・やれやれ、もう時間なのかい?」
「そうだ」
 淡々と答える泰明に、友雅は苦笑した。長い髪を右耳の下で纏めた
泰明は、そんな友雅の態度にも一向に表情を変えない。
「このような無防備な場所に長居は無用だ。危険を伴う」
「はいはい、わかったよ」
 長く伸ばした髪をフードの下に隠すように、再びマントを羽織り
直すと友雅は一番近場に停泊している大きな客船に足を向けた。
 船の入口の前まで来ると、キョロキョロと周囲を見回す人影があっ
た。自分と同じようにマントを頭から被っており、その様子は
決して人目につかないとは言い難い。恐らく動転しているのだろう。
マントの隙間から見え隠れする顔をちら、と見ると、眼鏡をか
けた真面目そうな眼差しであった。つい、好奇心に駆られ、友雅は
その若者に近付き声を掛ける。
「何か、探しているの?」
「・・・・え、あっ・・・・その、どこに行く船なのかと・・・
 係りの方もいらっしゃらなくて、案内板を探していたのでが・・・」
 俯きがちに答える様子を見て、恐らくあまり顔を見られたくない
のだろうと友雅は察した。
「案内所ならこの奥にあるけれど・・・これは、天の都へ行く船・・・
君がお探しのものかな?」
「天の都・・・・そうですか」
 鷹通は一瞬戸惑った。今まで一度も行ったことのない都。だが、
周囲にある他の船は貨物船や漁業船ばかりで旅客船はこれだけのよう
であった。だが、このままこれに乗り込むべきか、鷹通は決めか
ねていた。
「・・・ありがとうございました」
 軽く頭を下げると、一旦船を離れようと歩き出す。その瞬間、再び
潮風が港を吹きぬけた。真正面から風を受け、ふわりと鷹通の
髪が水鳥の羽根のようにフードからこぼれる。慌ててマントを調えよう
と鷹通が振り返ると、声を掛けてきた男がじっとこちらを見ていた。
あちらのマントも風に乱れてしまったのか、癖のある髪が靡いていた。
「・・・・・・・・・・・」
 鷹通は驚いた。先程、街角で自分がぶつかってしまった男とよく
似た顔をしている。だが、あちらは髪は真っ直ぐで、雰囲気もどこ
か異なる。何と言うのだろうか、気品のある顔。ゆったりと微笑む
唇に反して、どこか瞳の奥に憂いがあるようにも感じる。
「大丈夫かい?」
「・・・・は、はい・・・・・」
 再び声を掛けられ、鷹通ははっとした。観察するように人をまじ
まじと見るなど、なんとはしたない真似をしていたのかと思うと、
自分が恥ずかしかった。誤魔化すようにマントを被り直し、軽く会
釈をしてその場を離れた。

 鷹通の後姿が小さくなった頃に、
「またお前の悪い癖だ」
何時の間にか真後ろに立っていた泰明が、淡々と呟いた。
「何故危険かもしれないと言っているのに、勝手に動きを取る?
 しかも目立たぬようにせねばならないということも、何度言わせる
 気なのだ」
「ふふ、本当に君くらいだね・・・私にそんな口を利くのは」
「身分ある者だからと言って、理を破って良い訳ではない」
「仕方あるまい、性分というものだよ・・・・それに」
 苦笑いしながら、友雅はマントを被り直した。
「少しばかり、珍しい羽根をした鳥を見てしまったものだから、ね」
 フードの下に隠されていた若者の顔は、綺麗な容をしていた。
多分、多くの者はあの堅苦しい眼鏡に隠されている故に、気付かない
のだろう。そういったものを見分ける審美眼だけは、友雅自身自惚
れていた。おまけにあの物腰から行くと、決して気の強い方ではあ
るまい。だが、芯の通った眼差しが印象的で。
「狩りなら旅から帰ってからするがいい」
「・・・やれやれ、君には情緒というものだけが欠けているね」
 微かに名残惜しさを感じながら、泰明に促され友雅は船へと入っ
ていった。







20050121



金色の天と白銀の星

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