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■ 蒼 T ■



 天真は迷わず一番奥の部屋の扉を叩いた。イノリが目を離せない程の重病人は、大概この部屋で療養させているのを知っていたからであった。
 がちゃりと扉を開くと、
「・・・・・・おい、何やってんだ」
寝台にいるはずの患者が、開け放った窓際に立ち、外の様子を眺めている。
「お前、重症のはずだろ」
「・・・・・・・・・誰だ」
 振り向いた顔色は、思ったよりも悪くないと天真は思った。
「オレか?天真だ、お前は?」
「・・・・頼久」
「で、頼久さんよ、あんたケガ人だろ?ちゃんと寝ててくれよ」
 その言葉をスルーし、頼久は己の疑問を先に口にした。
「いつもの、イノリ、と言ったか、あの医師はどこへ?」
 ちぇっ、と言いながら天真は寝台の脇に置かれたパイプ椅子に腰を下ろした。
「さぁな、何でも『幸鷹』とか言うヤツから来た手紙を見たら、詩紋と
一緒に血相抱えて出てっちまった」
 あ、詩紋知ってるか?と聞かれ、ああ、と頷く。答えながら、頼久は『幸鷹』という名前が引っ掛かっていた。
 確か、先日鷹通がやって来た時に、詩紋という少年が彼を『幸鷹さん』と呼んでいた。二人が身に纏った衣装も、決して安価なものではない。然程衣服を気にしない頼久の眼から見ても、高価なものだとはっきりと判るような素材や細工。
 自分達をかくまってくれる人がいる。そう言う鷹通は、明らかに何かを煙に巻こうとしている。恐らく、自分を心配させないようにだとは思うが、何処か嫌な予感で頼久の胸中は悶々としていた。
「天真、とやら」
「・・・とやら、ね・・・なんだよ、頼久とやら」
 茶化した返答に、一瞬頼久はむっとした表情を浮かべるが、すぐに厳格な声に変わった。
「頼みがある」
「・・・・・・なんだよ、事と次第によっちゃあお断りだぜ」
 からかうように口の端を持ち上げ笑うが、そんな天真の様子構わず頼久は淡々と言葉と継いだ。
「その『幸鷹』という人物の元へ、連れていって欲しい」
「はぁ?!何言ってんだ」
 天真は素っ頓狂に叫んだ。イノリがこの部屋で治療すること事態、かなり容態が悪いに違いない。外に連れ出せる訳がなかった。
 というより、そんな事をして後でイノリにどやされるのも御免である。早馬で荷運びをしている天真に取って、イノリは大事な取引先の一つだ。それに、
「第一、オレはその『幸鷹』ってヤツは知らねぇし」
「低い身分ではない筈だ」
「んなこと言ったって・・・高い身分・・貴族か?」
「恐らく」
「・・・身分の高い『幸鷹』で、オレでも知ってるっつったら・・・アレだろ・・・」
「あれ?」
「ホラ、星の総督と養子縁組したっつー、元天の総督の『藤原幸鷹』」
「元、天の総督?!」
「でもそれだと、身分高すぎじゃねぇのか?」
 頼久は俯きながら、小さく、藤原・・・天の、と何回も呟くと、
「・・・・・・頼む」
意を決したように面を上げた。
「マジかよ?!」
 あまりに真面目な顔に、天真は再び素っ頓狂に叫んだ。







20050326



金色の天と白銀の星

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