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■ 鈍 V ■ 書庫の近くまでやってくると、 「・・・この先ですが、入口に見張りがいます」 鷹通は小さく背後の男に呟いた。 「じゃあ、お人払い願おうか」 「私には無理です、この件は友雅殿の側近が指揮しておられる」 そう、とジェイドは呟いた。 「見張りは何人?」 「・・・・恐らく、一人か二人・・・」 ジェイドに誘導されるがままに答えている自分が、鷹通は不思議で仕方なかった。 「じゃあ、気を引いて」 「・・・・・・・私が、貴方の言う事を聞くとお思いですか」 だが、心のどこかで彼が幸鷹を救ってくれるのではという、淡い期待が眠っているのも否めない。 「じゃあ、見殺しにするんだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「私は彼らを、殺すよ?」 振り向きたくても振り向けない。それが銀色の光のせいなのか、背後の男自身の放つ静かな殺気のせいなのか、鷹通は自分の意識を図りかねた。 「・・・・わかりました、ですから」 「いい子だね」 鷹通の言葉をみなまで聞かなくとも、ジェイドはどう答えようかもう決めていたのだ。 「すいません」 「総督補佐」 突然声を掛けられたが、警備の者はピ、とすぐに姿勢を正し敬礼の形を構えた。 「どうですか、中の様子は」 軽く辺りを見回し、警備が一人であることを鷹通は確認する。 「はい、本人は至って大人しくしております」 「そうですか」 「ただ先程、総督が」 そこまで言いかけて、警備の声は止まった。 「・・・・・!!」 目の前の喉に巻き付いた、しなやかなまでに細い紐の動きに眼を奪われる。 鷹通の身体を楯のように隠れ蓑にし近付いたのか、ジェイドの動きは全く悟られることなく、警備の男の首を捕らえた。 紐の端を握ったまま、ジェイドが背後に回り込み、キリ、と紐を締め上げる。男の顔は苦痛に歪んだ。 「ジェイド!殺さないと・・・!」 「あぁ、そうだったかな」 口元を弓形に動かしても、鷹通には少しも笑っているように見えない、その表情。 「ジェイド!」 搾り出すような鷹通の声に、ふふ、と微笑むと、ジェイドは男の正面に回り込み、鮮やかに鳩尾へ拳を叩き込んだ。 ずるずると倒れ伏す男の身体を、面倒臭そうに受け止めると、荷物を手荒に扱うように床にどさりと転がす。 左手に絡んだ紐の端を、くぃっと引くと、それは生物のように巻き付いた喉を離れ、ジェイドの手の中に引き戻された。 「・・・・・・・・・・」 鷹通は言葉も出なかった。ジェイドはただの幸鷹の側近ではない。明らかに、人を殺める手段を知る人間で、しかもそれに躊躇いがなかった。 「覚えておいた方が良い」 いつもと変わらない、涼やかな表情。 「私は、こうすることに抵抗がないのだよ」 例え君であってもね、と何でもない事のように呟く。 「開けてもらおうか」 言いようのない恐怖に直面し、鷹通は言われるがままにドアノブに手を掛けるしかなかった。 20050404 |
金色の天と白銀の星 |
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