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■ 銀 11 ■



「君は、何者?」
「・・・・・・・・・わかりません」
 何度尋ねても答えは同じで、ふぅ、と溜息を吐く。力なく壁にもたれている、その横に友雅も並んで腰を下ろした。泰明が見たら、危機感がないとどやされるだろうが、不思議なことに全く危険を感じなかった。
 『幸鷹』があそこまで必死に護ろうとするこの男の事が、友雅はどうしても解せない。血縁にしては、お互いに言っていることやっていることがちぐはぐで、だからと言って、『幸鷹』がただの正義感でこの人物を庇っているとも思えず。
 『幸鷹』の目の前で追求すれば、また彼に目くじらを立てられるのも面倒だと思い、わざわざ早朝に、自称『金細工師の鷹通』の元を訪れたのだ。
「じゃあ、質問を変えようか・・・君が覚えている、一番古い記憶は?」
 友雅の言葉に、『鷹通』は気だるそうに首を傾げた。
「・・・・・古い・・・・記憶・・・」

 問われ、めぐらす思考に浮かぶのは。
 白い天井、否、寝台の天蓋。
 傍らに、びしょ濡れの男。真っ青な顔をして、その整った顔立ちに不釣合いなくらいに、眉を顰め、覗き込む顔。
「・・・・誰?」
 そう尋ねると、一瞬驚いた顔をする。それはそのまま苦い微笑みに変わった。
「・・・私の事が、わからない?」
 頷きたかったが、身体が重くて上手く首が動かなかったが、それを察したのか、男はこう言った。
「私の名は・・・・・・『翡翠』」
 自分自身の事は、覚えている?と尋ねる表情が切なくて、胸がずきんと痛んだ。
「わからない」
「・・・・・そう」
 何故か、心の中に激しい罪悪感が溢れて止まらなかった。

「どうしたの」
 友雅の声に、『鷹通』は現実に引き戻された。
「・・・・・・・・・・・」
「顔色が悪い、どこか痛む?」
 その言葉に、どう答えていいのか判らないようにただ首を横に振る。
「なら良いけど」と呟き、自分を覗き込む男に戸惑っていた。星の都の総督だという『翡翠』に瓜二つの男に。

「私はね、確かめたいのだよ」
「・・・確かめたい?」
「そう、知りたい・・・」
 『幸鷹』の真実を。その言葉を友雅は飲み込んだ。

 瞬間、がたん、と音がした。

 友雅が立ち上がると同時に、どさっという何か大きなものが落ちる音が続く。
 『鷹通』も、一瞬身を竦めるが、
「・・・何が・・・?」
すぐに友雅の横に立ち並ぶ。
「・・・・・・・・・・・・」
 明らかに、扉の向こうで何かが起こっている。

 ギィ、という鈍い音がして、廊下の光が差し込んだ。







20050413



金色の天と白銀の星

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