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■ 蒼 U ■ 道中、天真の馬車に追いつかれた詩紋とイノリは、そのまま荷台に飛び乗った。 「おい天真!!なんで面倒頼んだはずのケガ人がそこに乗ってんだよ!」 イノリはしゃくるように顎先を頼久に向ける。天真は、苦い顔をしながら反論した。 「だってよ、仕方ねぇだろ!!」 本人がどうしてもって言って聞かねぇんだから、とお門違いの怒りをぶつぶつ言いながら受け流した。当の頼久はと言うと、無言のまま馬車の外を眺め、道程を確認していた。 「あの、お願いです!!橘の・・・総督の館へ・・」 詩紋の言葉に、 「言われなくても、オレたちおんなじトコへ行くからよ!」 天真が馬首をめぐらせ、館に到着する頃には空が白み始めていた。 あまり屋敷に近付きすぎると、警備が来ますから、と詩紋に促され、一行は館の裏手に馬車を繋ぎ裏門へと向かった。 「頼むから、盗まれてくれるなよ」 と、馬に拝みながらその場を離れる天真に、イノリが鼻で笑うように呟いた。 「ケチケチすんなよ」 「なに言ってんだよ!こいつぁオレの大事な商売道具だぞ!!」 「・・・あ、あの・・・二人とも・・・もし良かったら、ここで待っててもらっても・・」 「いまさらだろ!乗りかかった船だぜ」 気遣う詩紋に、イノリはウインクして見せた。 そうこうしている間に、 「あっ!頼久のヤツもう行っちまってやがる!!」 さくさくと歩んで行く背中を天真が慌てて追い、後に詩紋達も続いた。 幸鷹さんに頼まれた塗装の職人さんです、と詩紋がごまかしながら裏門の警備を抜けると、 「オレら左官屋に見えっか?」 苦笑いする天真を横目に、頼久は詩紋の後を黙々と追った。 「この先に、幸鷹さんの私室があります」 そう言って角を曲がった先で、 「・・・・・・あっ」 「・・・詩紋?」 詩紋に、そして頼久に取って思いもかけない人物に出くわしたのだ。金の髪を肩で切り揃え、あどけなくもあるが、鋭い眼光をした少年だった。 頼久は、その姿に見覚えがあり、慌てて自ら引いて壁の死角に身を潜めた。 「・・・セフルくん・・・お、おはよう!はやいね」 「アクラムさまから緊急の命だ・・・そういうお前は」 「・・う、うん・・・・ちょっと、用事を言いつかって・・・」 詩紋は、目の前の少年とは苦い思い出しかなかった。 セフルは戦によって平穏な日常からはじき出された孤児だった。 路頭に迷ったところをアクラムに拾われたのだと聞いたことがある。アクラムの部下として、様々な命をこなしているらしいが、あまり面に出せない後ろ暗い指令も多いようで、橘の屋敷の中では、セフルはあまり良い目で見られてはいないようであった。 詩紋が壌の都から星の総督府へやって来た時、セフルは詩紋も自分と同じ境遇の子供だと勘違いしたらしく、彼なりに心を砕いて詩紋に接していたらしい。 だが、詩紋自身は壌の都の貴族出身であり、ここにやってきたのも、いずれは総督やその配下達の世話係となるためだと知り、セフルの態度は一変した。 話題に詰まった詩紋は、セフルが知りうることで、尚且つ幸鷹が欲するであろう情報を得ようと、必死で思いめぐらせた。 「あ、あの・・・昨日捕まった人は、どうなったの?」 「昨日・・・?あぁ・・・」 恐る恐るの詩紋の言葉を、鼻先で笑いながらセフルは言葉を続けた。 「あの盗っ人金細工師か!」 頼久の唇が、ぴく、と震える。 「アクラムさまが今から詮議されるとのことだ。ま、極刑は免れないだろうな」 「極刑・・・あの、その人・・本当に盗みをしたの?」 「何を言っているんだ、お前は・・・」 セフルは嫌なものに触れられたように、眉を顰めた。 「ボクが間違いなく最初に預かった。そして、細工師に預けた。そして、それを間違いなくまたボクが受け取って、アクラムさまにお渡ししたんだ!摩り替わるタイミングなんて、ひとつしかありえないだろ!」 まるで詩紋に掴みかかりそうな勢いで詰め寄ると、 「それとも何か?お貴族サマは、このボクみたいな孤児上がりの下賤な人間が盗んだとでも言いたいわけか?!」 「そ、そんな・・・僕はそんなこと思ってなんか・・・」 「どうだかね、そんなこと言って・・・陰でボクを嘲笑ってるんだろう?」 「セフルくん・・・」 「・・・もういい加減にしとけよな」 詩紋の背後で黙って聞いていたイノリが、たまらず口を挟んだ。 「お前の言ってることさ、ただ上げ足取ってるようにしか聞こえねぇんだけど」 「何だ、お前は・・・・」 「オレか?オレはな・・・」 「さ、左官屋です!!」 イノリの口上を、天真が慌てて被せるように叫んだ。 「・・・ふん・・・壁塗り風情が、このボクに説教か?」 「んだと」 「は、はい!!すいませんでした!こいつ新人でして・・よく言っときます!!」 そう言いながら、天真がぐりぐりとイノリの頭を押さえつけ、謝罪の格好に強引に持ち込んだ。 「・・・まぁいい、今回だけは許してやる」 胡散臭い顔をしながらも、セフルが三人の脇を抜けて足を進めた。 角を曲がった先に、 「・・・・・・・・?!・・・」 刀を構えた頼久が立ちはだかる。 「おまえ・・・あの時の・・!」 生きていたのか、と呟くセフルに、頼久は表情を変えずに刃を向けた。 「その金細工師のところまで、案内してもらおう」 「オレの努力、水の泡だろーが・・・」 天真の呟きが、頼久の耳に届いたか否かは不明だった。 20050417 |
金色の天と白銀の星 |
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