金色の天と白銀の星



■ 絢 \ ■



「友雅殿・・・」
 予想しなかった人物に、鷹通は思わずその名を呟いた。
「幸鷹殿・・・・どうして」
 そのすぐ背後に、一回り大きい人影が揺れる。
「翡翠・・・!」
 今度は幸鷹が呟いた。

「・・・全く、寿命が縮まったよ」
 幸鷹の姿を見止めると、ジェイドは溜息混じりに意地悪く呟いた。
「ジェイド・・・いつこちらに」
 言いかけた言葉を友雅は飲み込む。ジェイドの手に握られた刃先の向きを確認したからであった。
「・・・どういうことか、説明して欲しいものだが」
「必要はないだろう?まずは迷子の仔猫を返していただこうか」
 鷹通の首に銀刃を向けたまま、ジェイドは幸鷹に、おいで、と呟いた。幸鷹は不安げに友雅とジェイド、そして鷹通を交互に見遣ると、ゆっくりと呼ばれた方向に足を向ける。
「翡翠・・・」
 近付いた幸鷹の肩を、空いた手で抱き寄せると、耳元で囁くように低い声を響かせた。
「あれほど勝手に外に出てはいけないと言った筈だろう?」
「すみません・・・ですが、あのままではいけないような気がして・・・!」
「・・・あのままが良かったのだよ」
 誰へともなくジェイドが漏らした言葉は、鷹通の耳にも届いた。
「ジェイド、もう良いだろう?人質を解放したまえ」
「・・・友雅殿」
 鷹通の眼には、友雅の表情は普段と変わらなく見えるが、どうやらジェイドには違ったようである。ふふっと嘲るような笑みを漏らすと、
「残念ながら、お受け致しかねるね」
刃先を先程より一層鷹通の頬に近付けた。
「・・・・君が怨んでいるのは、私だろう?」
 幸鷹は無関係だ、という友雅の言葉に、
「怨む・・・?」
今度は鷹通が微かに眉を顰めた。
「・・・・知っていたんだ?」
 再び嘲笑混じりに口の端を上げるジェイドに、友雅は前髪をかき上げながら溜息を吐いた。
「先日、私の・・・いや、君の乳母が尋ねて来たよ」
「・・・そう、元気だった?」
 いつもの、何でもない会話を交わしているジェイドだった。
「怨まれても仕方あるまい・・・私は、君の持っていたものを総て奪ったのだから」
「別に、どうでも良いことだよ・・・欲しくもない」
 まるで笑わない目で友雅を捉える。
「・・・最も、総督がそこまで私に詫びたいと仰るのならば」
 ジェイドは、幸鷹を抱き締めた腕を離すと、
「ここにある華を、捧げていただくのも面白い」
鷹通の首を後ろから羽交い絞めた。
「・・・っ・・」
「幸鷹!」
「手折るのは、容易いこと」

 その様を、幸鷹は呆然と眺めているしかなかった。
 自分を含め、星の総督とジェイド、そして自分とそっくりの幸鷹と呼ばれる人物の関係が全く見えて来ず、どうして良いのか判断が付かなかった。

「ジェイド・・・いや、翡翠殿・・・いや、それも違うのか・・・何が望みだと?」
 友雅が絞り出すように呟く。
「望み?・・・簡単だよ、『総督』・・・私の一番大切なものを返してもらう、それだけだ」
 それをジェイドは嘲笑を交えたまま見下すような視線を投げた。
「ジェイド・・・」
 鷹通は背後から響く、いつもよりも切なさを交えた声に、思わずその名を呼んでいた。
「・・・・翡翠、もうやめろ!」
 幸鷹の叫びにも似た声が響く。それがどこまで届いているのか、
「出来るものなら、とうに・・・そうしているよ」
湧き上がる何かを思い出すように、ふふ、と幸鷹に微笑みかける。

 その目線を見逃さなかった友雅は、ぎくしゃくした歯車がカチン、と噛み合う音が聞こえた気がした。

「・・・・・そちらか・・・幸鷹殿は・・・!」
 そう言いながら、友雅は先程まで自分の隣で語っていた記憶のない若者に目を遣った。そして、そのまま目線をジェイドの腕に囚われた『幸鷹』に向ける。
「・・・・・友雅、殿・・・」

 『幸鷹』を名乗っていた顔が、俯き、曇った。









20050419





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