金色の天と白銀の星



■ 絢 14 ■

 揺らぐジェイドの体を、幸鷹は背後で支えるように寄り添う。
「アクラさまッ!!」
 ばたん、という音に皆一斉にジェイドに向いた目線を上げると、入口が完全に閉じられていた。友雅が駆け寄り、入口に呆然と立ち尽くしたセフルを押しのけ、ドアノブを回すが、
「・・・・・・・・・・・・駄目だ」
完全に外側から施錠されており、ノブは回らなかった。
「私の手で始末できないのは、残念だが・・・・そこで煙に巻かれて、息絶えるがいい」
「アクラム・・・!」
 戸を叩くが、高らかな笑い声が遠ざかるのみで、返答はなかった。
「アクラムさま・・・・」
 主に見捨てられたとしか言いようのないセフルは、力なくその場にへたり込む。
「・・・閉じ込められたか」
 唇を噛みながら、友雅は、くそ、と扉に拳をぶつけた。
「友雅殿・・・・」
 そんな取り乱した友雅を見るのは、鷹通は初めてである。
「翡翠、しっかりしなさい!」
 その声に振り返ると、ジェイドが壁に凭れながらその場に崩れる姿があった。
「・・・まだ、その名で呼んでくれるのだね・・・」
「黙りなさい、傷が広がる!」
 衣服の脇腹から、紅い滲みが浮き出していた。
「ジェイド・・・!」
 鷹通は慌てて駆け寄ると、自分の首にあった白いスカーフを抜き取り、ジェイドの脇腹に当てた。
「鷹通・・・」
 幸鷹の目線を受けると、鷹通は大丈夫という意を込めて頷く。
「ともかく、ここから出なければいけません」
「・・・そうですね」
 鷹通の言葉に、幸鷹は僅かに唇を噛むと、すぐさま天の総督の表情を取り戻し、面を上げた。
「友雅殿、他に出入口は?」
「この部屋は、ここだけだね・・・・窓もない」
 元々、蔵書専用で作られた場所だけに、余計な日差しが入らないように設計されており、小さな換気のパイプが引かれているだけで、他に外界を繋ぐものはない。
「入口を、壊せないでしょうか」
 鷹通は扉を叩きながら呟く。幸鷹は周囲を見回し、他に目ぼしいものがないのかを探りながら、鷹通に問う。
「それの素材はわかりますか?」
「詳しくは・・・金属ではないですね。木、ですか・・・少々丈夫なようですが・・・」
「・・・・・考えている時間は、少ないようだね」
 友雅が促す方向を見遣ると、扉の隙間から、煙が僅かに忍び込み始めていた。
「何か、扉を壊せるようなものを持っては?」
 幸鷹も、鷹通も、無論そのようなものを持ち合わせる筈もない。
「ジェイド」
 床に腰を下ろす男に、目線で問うと、
「これ、くらいだね・・・」
懐からすっと差し出したものは、先刻まで鷹通に突きつけていた銀の刃先であった。
「・・・・・もう、だめだ・・・・・」
 壊れた人形のように、色の失われた眼のセフルが、
「ハハ・・・ボクは・・・捨てられたんだ・・・ッ!こいつらと・・・一緒に・・・!!」
乾いた笑い声を立てながら、自暴自棄に叫ぶ。
「・・・あぁ、五月蝿い坊やだね・・・」
 ジェイドは面倒臭そうに、前髪をかき上げると、
「捨て鉢になるのは君の勝手だが、そこにいてもらうと、邪魔なのだよ」
「翡翠!」
幸鷹が諌めるのにも構わずに言葉を続けた。
「人は、物ではない。捨てる、捨てない、それを位置づけるのは、誰でもない」
 だから、そこをどきなさい。
 口調こそ穏やかだが、眼差しに篭る無言の圧力に、セフルは力なく立ち上がると、扉の前からゆっくりと退く。
「『これ』を覚えていることが、『私』の唯一の証なのかもしれないね」
 ねぇ、兄さん?
「・・・・・・・・・・・・?」
 そうジェイドに問われた友雅は、その意味を飲み込めずに、何を返すことも出来なかった。

 瞬間、どん、という大きく弾ける音が響き渡った。











20051015





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