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■ 鈍 W ■ 「君の、叔母君の事を覚えているかい?」 「何ですか、突然」 幸鷹は、記憶の頁をぱらぱらと捲る。 「どの叔母上ですか」 「お父君のすぐ下の、君が生まれてすぐに嫁いだ」 「覚えても何も、まともに面識もないではないですか」 幸鷹が知るのは、美しい微笑みをした肖像画のみであった。 「確か、風の都の総督が見初めて、是非にと求婚したと」 「当時の風の総督は、あまり良い噂はなかったらしいね」 「・・・・と、言うと?」 「言ってしまえば、暴君」 「・・・・・・・・・・・・・・」 「病で亡くなったと言う前の奥方は、実はノイローゼで自害された、との噂もある」 「何故、今その話を?」 「いや、なにね」 ジェイドは天を仰ぎ見、前髪をかき上げた。 「叔母君が嫁がれて、三年くらい過ぎた頃・・・出掛けられたお帰りに、馬車が崖から落ちて」 「・・・・・・・・・・・」 「同乗されていた総督の前妻の次男と共に、崖下に」 「亡くなったのですか」 「さぁね」 「・・・とは?」 「見つからなかったのだよ、ご遺体が」 「・・・生きていると?」 「さぁね」 「先程から訊ねていますが、何故この話を?」 「身籠っていらしたそうだよ」 「?」 「叔母君は、行方不明の前に、ご懐妊が囁かれていたと」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「風の総督の次男は、生きていれば二十五歳・・・・御子は、十九か、二十歳か・・・・」 幸鷹は、脳内で何かが繋がった瞬間、小さく息を呑んだ。 「何故、その話を?」 ジェイドは、ふふっと含んだ微笑みを浮かべると、 「さぁ、何故かな」 「はぐらかさないで、答えてください」 「はぐらかしてなど」 そう言いながら、唇を重ねる。 「いくらでも、話してさしあげよう・・・ただし」 こうしながらね? ジェイドは幸鷹を、再び下に組み敷いた。 「・・・嘘はもうごめんです」 「心外だね」 「それはこちらの台詞です」 「こんなにも尽くしているというのに?」 幸鷹の、白い、滲み一つない首筋に、唇を落とす。 「・・・尽くされて殺されたのでは、割りに合いません」 ジェイドの動きが、ひたと止んだ。 「・・・・・・・・・いつから、知っていたの」 「・・・・鷹通が、館に来る少し前です」 「なるほど」 ふっと鼻で笑うと、幸鷹の頬をゆったりと撫でる。 「だから、歩けた訳だね」 「・・・おまえは、ひねくれすぎです」 「よりにもよって、一番言われたくない人物に言われるとは」 「殴りますよ」 「遠慮しよう」 眼前のはぐらかす表情を、幸鷹は両手で掴むと、 「ちゃんと、真実をお話しなさい」 「・・・・・・・・・・・・・」 表情の変わらぬジェイドの笑みも、いつになく曇った瞳が、影を落とす。 「話しても?」 「・・・・・・・・・・・・・」 「受け取る覚悟は、おありかな?」 「とうの、昔に」 「・・・・・・・・・・・・」 ジェイドの瞳が、僅かに見開く。が、 「本当に恐ろしいね、私の主は」 にやりと微笑むと、 「そこがまた、たまらなく魅力なのだけれど」 「翡翠っ・・・」 言葉を塞ぐように唇を重ねた。 20051113 |
金色の天と白銀の星 |
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