金色の天と白銀の星



■ 金 Y ■



 結局、今夜ここに泊まる事になった鷹通は、ベランダ窓のカーテ
ンを開け、ガラス越しに夜空を見上げながら今日一日を思い返して
いた。使者の怒りの訪問から始まり、一気に色々なことが押し寄せ
るように駆け抜けた一日。 
 一番の心配は、自分を庇った頼久は、無事だろうかという事である。
無意識にぽつりと呟きが漏れた。
「・・・・・・・・・頼久・・・」
「彼が心配?」
 背後からの予想しない声に、鷹通は慌てて振り返る。
「ジェイド、さん・・・驚かせないで下さい」
 警戒の色を露にする鷹通に、ジェイドはいつもの笑みを浮かべた
まま、音一つ立たない扉を閉じゆっくりと部屋の真ん中まで歩み
寄った。
「・・・頼久をご存知なのですか?」
「私が君の家に行った時は、血の海でね・・・もう助からないと思っ
 たよ」
「・・・・・・・!!」
「脇腹を銃弾が貫通していてね、逆にそれが幸いだったのか・・・・」
「無事なのですかっ?!」
 思わず鷹通はジェイドに詰め寄る。
「・・・・・・・一応、ね」
「一応?!」
 勢いで胸座を掴み、引き寄せた。
「・・・・・・・・・・・・大胆だね」
 にやりと微笑まれ、鷹通ははっとしながら両手を離す。
「す、すいません・・・」
 俯き謝罪する顔を見下ろしながら、ジェイドは天気の話でもする
ように答えた。
「今はまだ危険な状態だね、それもかなり」
 再び鷹通は顔を上げる。
「・・・・・・・・・・・そんな・・・!」
「彼の命を救うには、最高の医療設備が必要だろうね・・・」
 その言葉に、ジェイドが言わんとしている核心の匂いが漂う気が
して、鷹通は唇を噛み締めた。
「・・・・・貴方という人は・・・っ・・・・」
「・・・私は何も言っていないが?」
 両掌を天上に向け、さぁ?と首を傾げる姿がわざとらしい。この
男が目的のためには微笑みながら何でもするであろう事を、鷹通は
察していた。最高の医療設備など、民間人には簡単に用意出来るも
のではない事を判っていて、そんなことを言うのだ。
「・・・・・・・・・判りました」
「懸命な子だね、鷹通くんは」
 だが、果たして、本当に頼久はこの男の手中にあるのだろうか?
それを確かめなければ、鷹通も踏み出すことは出来なかった。
「その代わり・・・先ず頼久に会わせてください」
「・・・・・今は無理だね、あの状態では医師が許さないだろうよ」
「会わせていただけるまでは、身代わりはしません」
「・・・・・・やれやれ、意外と頑固な子だね・・・では、これで
 どうかな?」
 ジェイドは鷹通の脇を通り、ベランダ窓を開いた。少し肌寒い夜
風が室内に吹き込んだ。
「三日後・・・この天の館に、星の総督がやってくる・・・・・養
 子縁組の前祝いの宴・・・と称した、幸鷹の品定めにね」
 ジェイドが指差した先には、恐らく港と思われる明かりが揺れて
いた。この建物が高い断崖に建っていることが、この眺めからよく
判る。
「その祝宴の場で、君が立派に幸鷹の身代わりを務める事が出来た
 ら・・・私から医師に面会を取り計らおうじゃないか?」
 ジェイドの真っ直ぐに伸びた髪が、さらりと揺れた。
「君に、選択の余地はないと思うのだけど・・・どうだろうね?」
 涼やかな微笑みの男を見詰めながら、鷹通は再びぎり、と唇を噛
み締めた。









20050122





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