NEXT




■ 銀 U ■



 一月前の話である。
「この返事を出したのは誰だい?」
 友雅は机に置かれた封書を面倒臭そうに眺めて、溜息を吐いた。
「私ではない」
「・・・だろうね」
 泰明でないことぐらいは友雅にも判っていた。
「私ですよ」
 開かれた扉から入ってきたのは、
「・・・やはり君だね、アクラム?」
アクラムと呼ばれた男であった。金の髪を後ろで一纏めに縛り、
薄らと浮かべた微笑み。お世辞にも優しそうな人柄には見えなかった。
昔、火傷を負ったのだと、目には黒いマスクを着け、その素顔
を開かされた者は少なかった。
「貴方がいつまでも動かれないからですよ」
「興味がないのでね」
「だからと、もう一年以上もこの件を放っておかれるのはいかがかな?」
 友雅の父が、アクラムの父を甚く重用していたことから、その息
子である彼もこの星の館では密かに力を持つ。実際、頭の回転も速
く友雅自身、彼の機転に救われたことも少なくない。
「折角のご招待、三度もお断りしては申し訳ないとは思われませんか?」
 だが、実直だった父とは違い、アクラムには何か含みを感じる部
分も多い。友雅としては完全な信頼を寄せるに忍びない人物であった。
 一年前は親戚の喪中だと断り、十ヶ月前には体調不良だと断った。
その後、先方が病に伏したという噂は聴いたが、実際友雅には興味
がなかったのだ。
「だからと」
 アクラムの口調を真似て呟きながら、友雅は手にした封書を机に
ふわりと放った。
「私の意志を無視とは、いかがなものかな?」
 そう言い放つと、部屋を後にする。その後ろを黙って泰明は追った。
廊下を歩きながら、自分の半歩前の背中に声をかける。
「いかないのか?」
「・・・・そうはいくまい?」
 相変わらず泰明の態度は淡々としていたが、逆に友雅に取っては
それが救いである。虚偽だらけの周囲の中、一番仮面を被っている
ようで、実は本音を話すのは彼だけなのだから。
「一度はお受けした『天の総督』のお誘いを、『星の総督』が断る
 訳には、ね?」
「御意」
 苦笑いする友雅に、泰明は顔色を崩さず応えた。







20050122



金色の天と白銀の星

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送