眠る森[16]


「私を、買ってくださいませんか」
 少年は、まるで映画にでも誘うように、穏やかに言う。
「私は、男の子には興味はないのだけど」
「・・・・・・・・・・・」
 答えると、少年は、あっ、と言ってすみませんと詫びた。
「その・・・そちらの方だと、思ったものですから・・・・」
「私が、ゲイに見えた?」
「・・・・・・・・・・・」
 無言のまま俯く。
 髪が背中まで長く伸ばされ、後頭部で結んだ、男の子には珍しい髪型だった。多分、未成年であろう。
 馴染みのバーを出ると、向かいのコンビニから出てきた少年と目が合う。彼はゆっくりと私に近付き、言った。「私を、買ってくださいませんか」、と。
 縁のない眼鏡をかけ、あまりに真面目風な印象から、とてもそんなことをするように見えない。
 そこが、私の好奇心を煽った。
「いくらなの?」
「・・・・え?」
「君を買うって、いくらなの?」
「・・・・三万」
「ふうん」
 私は懐から財布を出すと、札を三枚抜いて、
「はい」
少年に手渡した。
「・・・・・・・・・・・」
 少年は、一瞬眼を丸くするが、すぐに黙って受け取ると
「場所・・・どうしますか」
と、小さく呟きながら、札をポケットに捻じ込んだ。
「場所?どこか指定はあるの?」
「特には・・・」
 ホテルならば、ホテル代を出していただきますし、車とか、外で良いのなら、それでも・・・。
 その言葉に、こんな純情そうな少年なのに、こういうことに手馴れているのだなと、そういう驚きの方が私には大きかった。
「そう、じゃあ・・・ホテル行こうか」
「・・・・・・・・」
 少年は、黙って私についてきたが、入ろうとするホテルを見て、
「こ、こんな高そうなところ、いいのですか?」
「そう?」
 いつもここだから。
 そう返事をすると、そうですか・・・と唖然とした表情を浮かべた。
 私は、女性を誘う時は、いつもここだったから、ごく自然にこの少年を誘ったのだけれど。




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2005.07.21


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