眠る森[17] |
チリ、チリ、チリ、チリーン。 私は再びベルを振ると、 「どうされました」 声も、再び襖の向こう側から、聞こえた。 「薬を、こぼしてしまった」 「え?」 「飲もうとしたら、薬をこぼしてしまったのだよ」 「・・・・・・失礼いたします」 カラリ、と襖が開き、龍と虎が左右に割れる。 案内の若者は、ゆっくりと、相変わらず緩やかな足運びで、私に近付いてきた。 「ほら」 私が視線で促した先には、畳と丸盆に白い粉が鮮やかに散っている。 「包みを、開き損ねてしまったのだよ」 一瞬、若者は苦い表情をしたが、 「・・・・・・・・・・・・お待ちください」 すぐに、いつもの冷淡な表装を被った。 すっとその場から姿を消すと、三分とかからずに戻ってきた。 「どうぞ」 「・・・・ありがとう」 手渡された移し紙を受け取ると、どこか安堵が押し寄せた。これで、何も考えずに眠れる。 「では、失礼いたします」 若者は一礼し、襖をカラリと閉じた。別たれた龍虎が、再び寄り添う。 「・・・・・・・・・・・・・」 私は、受け取った薬はそのままに、懐からもうひとつ、部屋に添えてあった方の移し紙を開いた。 中の粉は、半分程散らしたが、半分は残っている。そこに、新しく手に入れた粉を足した。 どうしても、私はひとつでは不安だったのだ。 一気に水で飲み下し、少女の眠る布団からは離れ、畳の上に寝転がる。 瞼が思うより早く下がってきて、薬が効いてきたように感じた。 ■ NEXT ■
2005.07.21
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