眠る森[6]


 好奇心でやってきたものの、どうして良いのか私は途方に暮れていた。
 相手は裸。ただし、完全に眠っている。触れるのは自由だと言っていたが。
 仕方なしに、布団の脇に置いてあった寝間着代わりの浴衣を手にすると、ジャケットから順に脱いで、それを羽織った。
 浴衣の置いてあった隣に、濃茶の丸盆に乗せられた水差しと、銚子よりは僅かに大きい程度のグラスがのせられ、そして小さく折りたたまれた移し紙が添えるように置かれていた。そっと開いてみると、白い粉薬が小さじ一杯程度くるまれており、鼻を近付けてみると、どこかで嗅いだことのある臭いが、つん、と漂う。
「こんなものを飲んでも」
 大丈夫なのかね、と再び一人呟き、その薬を元通りに戻す。
 目線は、眠る少年に移した。
 ともかく、立ったまま惚けていても仕方あるまい。掛け布団を上げぬまま、ごろんと転がってみる。
 まさか、眠っているのが少年だとは思わなかった。
 しかし、横顔をまじまじと眺めて、肌理の細かい肌をしているな、と感心した。よく見ると、目頭に眼鏡の鼻あてが痕を残している。普段から、よほど長い時間かけていると見える。
 しばらく眺めていたが、少し肌寒いように感じた私は、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思い切って掛け布団を上げ、あまり中をまじまじと見ないようにしながら、そっと身体をもぐりこませた。
 触れていない体から、ふわりと熱気が漂い、その少年が人形ではないことを訴えていた。いや、別に人形であると、本当に思ったわけではない。ただ、瞼も上げず、声も出さない。そんなひたすらに眠っているだけの人間と、床に入ったことなどなかったのだ。
 二の腕に触れてみると、やはり温かかった。そのまま指を手首に滑らせ、脈に触れる。どく、どく、と規則正しいリズムを刻んでおり、更にこの少年の存在を私に刻み付ける。
 寝転がった身を起こし、布団の中で少年を敷いた。
 胸元に指を這わせる。一瞬、呼吸が乱れたように感じたが、気のせいだった。
 綺麗な顔立ち。こんなに綺麗な少年が、一体何故このようなことをしているのだろうか。好奇心が、ふと湧く。
 もしや、誰かに拉致され、無理に眠らされ、このようなことをさせられているのでは?

 そこまで考えて、私はふと思い出した。



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2005.07.21


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