眠る森[7] |
「あなたが、すきなの」 そう言って、私に馬乗りになる女の顔は、美しく、そして、醜かった。 何度か、行き着けのバーで顔をあわせ、お互い暗黙のように何も聞かないままベッドを共にした。 それから、そこで出会うとどちらともなしに誘い、夜を過ごした。 年齢は判らないが、二十歳は越えていると見られる。みずみずしい、とまでは言えないが、適度なはりのある肌は、触れていて愉しかった。丸みを帯びた乳房も、大きすぎず、小さすぎず、掌を優しく 擽った。 そして、何度目の夜だろうか。シャワールームから出ると、彼女はルームサービスで頼んだと言って、赤ワインの注がれたグラスを差し出した。 何の気なしに受け取り、喉へ流すと、数分後には眩暈にも等しい眠気が襲い、倒れるようにベッドに伏した。 目覚めると、彼女の顔が嬉しそうに色づいた。 「なにか、食べる?」 両腕と両足が、ベッドに括られ自由のきかない状態になっていたのだ。 その日から二日間、私は彼女の虜となった。ルームサービスで取ったという食事を口元に差し出されたが、どうにも口にする気になれず、首を横に振ると、 「好き嫌いは、だめよ」 彼女は、ふわりと笑って皿をテーブルに下げた。 何故こんなことをしたのか、聞いてみると。 「あなたが、すきなの」 そう言って、私の上に馬乗りになり、胸に顔を摺り寄せた。 「本当は、もう何年も前から、すきだったの」 バーで出会うよりも前から、私を知っていたと言う。近付きたくて、後をつけ、あのバーを知り、それとなく近付いたのだと。 「あなた、さっぱりした女が好きだっていうから」 私、一生懸命そうしてきたのよ?くすくす微笑むと、胸にのせた顔を上げ、 「でもね、あの日、あなた・・・ちがうところを見た」 何のことか、わからなかった。 「だから、はやくしなくちゃって思ったの」 私だけのものに、しなくちゃって。 彼女の唇が私の胸に落ち、白くて小さな指先は、身体を弄る。 そうして、彼女は私を犯した。 そういうのもおかしな話だ。私は男で、彼女は女で。だが、確かに、女が男を陵辱するという行為は存在するのだ。 二日目の昼ごろだった。ルームサービスのポーターが、彼女の行動をいぶかしんで、警察に訴えたらしく、踏み込んだ警察官に彼女は捕われ、私は解放された。 ■ NEXT ■
2005.07.21
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