Rebersible Man 1





 幸鷹は思った。ばかばかしい、と。

 何のための警察なのか。

 警察とは、犯罪を撲滅するために存在するべきものではないのか。
 警察とは、国民の安全を第一に考えるための組織ではないのか。
 何度話し合っても出る答えはいつもこうだ。

「前向きに善処する」

 まったくもって何が前向きなものか。背中を丸めて引っ込んでゆくくせに。

 怪盗『白虎』。
 その名が世間を騒がせ始めてから、もう半年が過ぎようとしていた。

 ご丁寧に予告状を出し、警備網を憎らしいまでに掻い潜って、盗みを繰返す。しかも、その予告状
を出す相手が、決して警察に『警備してください』と言えないような輩ばかり。
 いつも警備に手を拱いては、美術品が盗まれるのを見送る。
 そして、世間は怪盗の華麗さを絶賛し、警察の無能さを嘆くのだ。

 今回、幸鷹は上層に警備の強引な介入を申し出た。いや、今回だけではない。過去、何回も同じ
話を繰返しているにも関わらず、返ってくる返事は灰色である。
 柵に雁字搦めになっている警視正という立場は、正直、今の幸鷹にとっては鬱陶しいだけの肩書
きであった。
 業を煮やして、つい机をバンと叩いて会議室を後にしてきたものの、頭が冷えた今、結局自分ひと
りの力では何も出来はしないことを再認識するだけである。
 今頃、会議室では
「所詮は権力を嵩にきた、青二才」
とでも言われているのであろう。
 そう言われぬために、出来うる限りの努力をしてきた筈なのだが、羨望と妬みに満ちた世ではそ
れも無駄なのかもしれない。
 実際、幸鷹は警視総監の信頼も厚く、更に政治家の弟であるという事実はなくならないのだ。(ど
んなに兄弟仲が悪かったのだとしても。)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 小さく溜息を吐き、眼鏡を外す。
 本庁の入口を抜けると、警備をしていた警官がさっと敬礼をする。
 反射的に幸鷹も敬礼を返し、再び眼鏡を掛けなおした。

 数分も歩けば、賑わいを見せる町並みが現れる。
 長い夏に終りを告げ始めた空から、もくもくとした雲は姿を消し、鰯雲がゆったりと流れていた。

(この国の組織は、まだまだ改善の余地だらけだ・・・)
 組織系統の部分的な癒着。要するに、上同志・下同志で完全に固まってしまっていて、溝が出来
ている。これでは穴だらけになっても仕方ないのではないのか。
 だが、それを自分がどうこう言ったところで、事態はまず簡単には変改しない。
 それよりも今は、怪盗をどうすれば捕らえられるのかが頭をめぐっている。

 瞬間、目の前に黒い影が見えると同時に、どん・・・と右半身に衝撃が走った。

 数歩後ろによろめくが、幸鷹は何とか踵に踏ん張りをきかせる。
 だが、
「・・・・・・・・・・ッ・・・」
 逆に自分の目の前の影が、がくんと沈んでいった。
「だ、大丈夫ですか?!」
 幸鷹は慌てて目の前に屈みこんだ影に手を差し伸べた。

「・・は、はい・・・すみません・・・私もぼぅっとしていまし・・・」
「・・・・・・・・・!」

 手を差し伸べるものと、差し伸べられたもの。
 お互いがお互いを認識した瞬間、更にお互いが混乱していた。

「あ、貴方は・・・・・」
「・・・あ、あの・・・・え・・・?」

 こんなところに鏡が?

 そんな筈はない。事実、一人は立って一人は座っているではないか。

 気味の悪い程よく似た、いや、全く同じ顔をしている相手に、幸鷹は言葉をなくした。無論、相手も
ぽかんとしているのだから、驚いているのだろうが。

 だがよく見ると、自分とは髪型が違う。長めの髪を後ろでまとめていて、更によくよく見ると自分より
少しあどけなさの残る顔立ちにも見えた。

「・・・あの、大丈夫ですか?立てますか?」
「あっ・・・は、はい・・・」
 幸鷹の差し伸べた手を、相手はしどろもどろしながら握り、その場に立ち上がった。
「あ、ありがとうございます」
 目線が並ぶと、益々鏡めいていて不思議な気分であった。

「・・・その・・・すいません・・・・びっくりしてしまって・・・・」
「いえ、それは恐らくお互い様でしょう」
 暫くお互いの顔をまじまじと見詰め合うと、
「・・・・・・・・・・ふ・・」
どちらともなく微笑みが洩れた。
「こんなことがあるんですね」
 幸鷹より少し年若い人物は、参ったなぁと言わんばかりに呟いた。
「あまり、ないことでしょうけどね」
 思わず幸鷹も苦笑いしながら呟いていた。

「・・・・・・あぁっ!!いけない!!」
 幸鷹と同じ顔の若者は、ふと見た腕時計に慌て始める。
「すいません!急いでいたので・・・で、ではこれで!!」
「・・・え、あ・・・はぁ」
 逆に今度は幸鷹がぽかんと眺める番であった。

「・・・せっかくだから名前だけでも聞いておけばよかったか・・・」
 駆けて行く後姿を目で追いながら、しみじみと思った。







2004.9.22 

・・・・・・・。

あのー・・・・
すいません・・・・

どーもキャラソン聞いてから
おかしくなったみたいです(爆)



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